中国電力が再稼働を目指す島根原発2号機(松江市)について、原子力規制委員会が7年半の検討の末、新規制基準を満たすとする審査書案を了承した。
全国で唯一、県庁所在地にある島根原発は、避難計画策定が必要となる30キロ圏に、鳥取県内も含め約46万人が住む。住民は計画通りに避難できるのか。敷地の南側の断層に関する規制委からの指摘で、中電は対策の拡充を迫られたが、これで万全か。課題や不安は尽きない。
島根県と松江市をはじめとする地元自治体の同意の動向が今後の焦点だ。再稼働ありきの判断は許されない。住民の安全・安心を最優先すべきである。
さらに訴えたいのは、地元の住民を中心に、地域の将来について考えることの大切さだ。
松江市では18年末から19年初めに、有志の呼びかけで市民協議会が開かれた。選挙人名簿から無作為抽出で選ばれ、参加を承諾した主婦や会社員、高齢者ら21人に、事務局の一部を担った島根大の学生5人も加わり、計4日、議論を重ねた。
原発については賛否が対立したままになりがちだ。その壁を乗り越えるため、無作為抽出での議論を各地で支援しているシンクタンク「構想日本」の協力を得て、工夫をこらした。
特定の結論を打ち出すことは最初から放棄した。傍聴席の一般市民も含めてヤジは禁止。大学の専門家や中電の幹部を招き、エネルギー政策の変遷や原発が生む雇用、税収なども確認しながら、参加者は「他者の発言をじっくり聞いて、自分の頭で考える」ことに努めた。
「経済効果の大きさを痛感」「何代も先の子どもが安全に暮らせるように」「どう考えたらいいか、堂々巡りになった」
発言をもとにまとめた「九つの提案」は、原発について「誰かが考えるのでなく、自分の問題とする」「どう暮らしたいかを問う」「情報に触れる機会を増やす」など、目新しさには乏しい。ただ、立地地域の大半が高齢化や人口減少に直面するなか、原点に立ち返ったこうした議論こそ必要ではないか。
運転開始から40年を超えた老朽原発が再稼働した福井県では、経産省を事務局に、自治体や電力会社のトップらがメンバーとなって「立地地域の将来像共創会議」が今月発足した。ところが、初会合では原発を抱える4市町がそれぞれの地方創生戦略を強調するばかりで、実務者協議を経て秋の次回会合で早くも基本方針を示すという。
これでは、原発の維持・再稼働に対し、予算配分や地元協力を約束する場になりかねない。住民をまじえての議論が求められることを思い起こすべきだ。
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