[カアナパリ(米ハワイ州) 22日 ロイター] - 米ハワイ州マウイ島の火災で自宅を焼失したデボラ・ロフラーさん(69)は、米本土で暮らしていた息子を同じ日に亡くし、これ以上失うものはないという気持ちだった。
悲嘆に暮れ、打ちひしがれるロフラーさんはその直後、自宅のあったマウイ島ラハイナの土地を売らないかという押し付けがましい電子メールを複数受け取った。彼女の祖父が1940年代に海辺に建てた、鴨の羽色の木造の自宅があったその土地を。
「まるでハゲタカに食い物にされているような気分だった」と話すロフラーさんは元客室乗務員。避難先となっているマウイ島のホテルの部屋でインタビューに応じた。ベッドのそばには調理済みの粉末卵と冷えたジャガイモが入った容器が手付かずのまま置かれていた。
カリフォルニア州パラダイスやニューメキシコ州北部などでも2018年と22年の大火の後、被害を受けた不動産を買いたたこうとする動きがあり、ロフラーさんと同じような目に遭った人々がいる。
ロフラーさんはマウイ島の土地の買い漁りによってハワイの文化が消えるのではないかと心配だ。
ハワイはもともと安価な住宅が不足していたが、今回の火災でそれ一段と悪化。住める場所を求め、多くの世代の家族の流出が加速する恐れがある。米国国勢調査のデータによると、ハワイ州は先住民の人口が過去10年間に米国本土で暮らす先住民の人口を下回った。
不動産サイトのジロウによると、ラハイナは過去100年で最悪となる今回の山火事の前には住宅の平均価格が110万ドル(約1億6000万円)と、全米平均の3倍だった。
しかし人口の75%ほどをアジア系、ヒスパニック系、ハワイ先住民、またはそれらの混血が占めるマウイ郡は、世帯所得の中央値が8万8000ドルで、全米平均を24%上回るに過ぎない。
低価格住宅の普及を目指すハワイ・アライアンス・フォー・プログレッシブ・アクション(HAPA)のような団体は住宅差し押さえの一時猶予を求めている。
ハワイの消費者保護局は、差し押さえや再建費用の恐怖をあおり立て、市場価格を下回る買い取り価格が提示されていると警告を発した。このようなケースが何件報告されているかについてはコメントを避けた。
ハワイ州のジョシュ・グリーン知事はラハイナの土地売買の禁止を提案しており、15日の記者会見で「われわれはこうした土地が外部から来た人々の手に渡るのを防ぐために、できる限りのことをするつもりだ」と述べた。
ラハイナに長く住み続け、今回の火災で家を失った世帯の多くは、住宅に抵当権が設定されていなかったり、建築基準を満たしていなかったりしたため保険に入っていなかったと、ハウジング・ハワイズ・フューチャーのディレクター、スターリング・ヒガ氏は話した。
ヒガ氏は住民がいつまで買い漁りの圧力に持ちこたえることができるかは、自宅再建を待つ間にどのような仮住まいを得られるかにかかっていると指摘。「住居や経済的な支援という点で、彼らに対する真のサポートが必要だ」と訴えた。
災害対応の専門家は、ホテルの部屋やコンドミニアム、賃貸住宅の転用、移動式住居の設営、さらに州最大の都市であるホノルルへの移送などを組み合わせて、仮の住宅が提供されるだろうとみている。
災害、気候、コミュニティーの専門家であるアンドリュー・ランバック氏は、「人々を近隣に留め置き、復興に参加させることは、被災地の人口を維持するための初手として有効だ」と述べた。
一方、危機に瀕しているのはハワイ文化の存続だと、ハワイ大学のカリコ・ベイカー准教授は指摘する。火災で焼失したラハイナの教会に隣接していたハワイ語の学校を引き合いに、「ラハイナの土地を買い、復興する人たちはハワイ語学校も再建するのだろうか」と懸念を示した。
破壊された自宅から数マイル離れた場所に夫と避難しているロフラーさんは、送りつけられてきた土地買い取りの電子メールを削除。米国本土で亡くなった息子のサムさんと、自分のコミュニティーが失ったもの全てを悼んでいる。
ロフラーさんは保険金でプランテーション風の自宅を再建し、ラハイナが再び「ラハイナらしく」 なるように努力するつもりだ。孫たちには、日系、ドイツ系、ハワイ先住民の血を引く自分たち一家が約1世紀にわたって暮らしてきたこの島とのつながりを保ってほしいと願っている。「絶対に家は売らない。テント暮らしになるなら、そうするつもりだ」と強い決意を示した。
からの記事と詳細 ( アングル:マウイ島の被災者苦しめる「土地買いたたき」メール - ロイター (Reuters Japan) )
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