関東大震災では、大勢の避難者が折り重なって転倒し亡くなった人もいた。こうした「群集事故」は、橋や狭い道など逃げ場のない場所で起きる。都によると450万人が帰宅困難となることが想定され、各地で人混みが見込まれる首都直下地震でも警戒が必要だ。(小沢慧一)
◆逃げ惑う被災者が、もまれて亡くなる
「橋の上に衝突して押しつぶされ踏み倒され、橋より落ちて大河に沈むもあり、欄干に押し付けられて絶息するあり、
隅田川にかかる相生橋(東京都中央区、江東区)や横浜市中区の吉田橋で事故が起きたが、正確な犠牲者は分かっていない。
当時、旧東京市(現在の千代田、中央、港、台東区など都心部8区にまたがる)の人口は約220万人。今、東京23区の人口は約977万人で、昼間は都外からの通勤通学の人を含めると1100万人を超える。一極集中は避難リスクも高めている。
◆「次も同じように帰宅」にはリスクが
2万3000人以上の死者が出ると政府が想定する首都直下地震。帰宅困難者が一斉に帰宅すると、何が起きるのか―。東京大の広井悠教授(都市防災)のシミュレーションでは、新宿や渋谷、新橋などでは1平方メートル(電話ボックスの広さ)内に6人以上がひしめき合う大過密状態が発生した。
2011年3月の東日本大震災で震度5強の地震があった東京では、公共交通機関が使えず多くの人が歩いて帰宅した。混雑する場所が多数あったが群集事故は起きなかった。広井さんの調査では当時、家に帰れた帰宅困難者の84%が「次も同じように帰宅する」と回答。こうした成功体験はリスクへの認識をゆがめかねない。
「首都直下地震では震度6強以上の揺れが想定されている。いたるところで大きな建物が倒れ、火災が発生し帰宅は格段に過酷になる。『次も大丈夫』との考えは非常に危険」と広井さんは強調する。東京では10年3月の平日夕、原宿の竹下通りで群集事故が起き、複数のけが人が出たことがある。「アイドルが来ている」といううわさがきっかけとも言われている。
東大の関谷直也准教授(災害社会科学)は「都内ではささいなきっかけで群集事故が起きるリスクがある。震災直後はさらなる混乱も予想され、リスクは計り知れない」と指摘。「どうしても待機ができない人でも、逃げ場がない橋、歩道橋、地下鉄の階段や人が集まる細い道などは群集事故の恐れがあるので近寄らないで」と呼びかける。
群集事故 人の過密空間で、後方の人が前方の人を押し倒したり、群集内のもたれあいが崩れることで転倒が広がる事故。雑踏事故、群集雪崩ともいう。2001年7月21日に兵庫県明石市の歩道橋で花火大会の見物客たちが倒れ、11人が全身を圧迫されて死亡し、183人がけがを負った。22年10月29日には韓国の首都ソウルの繁華街・
◆3日間は「帰らなくていい」ようにするには?
多くの帰宅困難者が徒歩や車で自宅や避難先へ向かおうとすると、道路の混雑が救急車や消防車の通行の邪魔となり、救助が遅れて犠牲者が増えることにつながりかねない。
東京都は東日本大震災で起きた帰宅困難者による大渋滞の経験を踏まえ、2013年に帰宅困難者対策条例を施行。救命救急が最優先される72時間は、職場や学校などでの待機を努力義務とし、事業者にも従業員を3日間待機させられるだけの食料などを備蓄するように求めている。
待機中の不安を減らすためにも、普段から最低3日間は「帰らなくていい環境づくり」をしておくことが欠かせない。
都や専門家によると、家族との安否確認の手段は複数準備する必要がある。電話やメール、交流サイト(SNS)以外にも災害用伝言サービスや災害用伝言板を活用し、自宅や通勤通学先周辺に公衆電話があるかを事前に把握しておくことが望ましいという。
個人でも職場に非常食や常備薬、ヘルメットを準備したり、直後の混乱が収まった後の徒歩帰宅に備え、自宅までの経路の確認をしたり、歩きやすい靴の備えもしておくべきだという。子どもの引き取り方法についても学校や保育園に確認したり、PTA、児童の保護者同士などで協力体制をつくっておくことも大切だ。
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