comot.prelol.com
本稿はカスタマーサクセスを手掛けるHiCustomer代表取締役、鈴木大貴氏によるnoteからの転載。有益なスタートアップの失敗談が共有されていたので、ご本人の許諾を得て転載させていただいた。
こんにちは、HiCustomer代表の鈴木と申します。
HiCustomerは2017年創業のSaaSスタートアップです。累計2億円強を調達しカスタマーサクセス領域のプロダクトを提供してきました。業界黎明期から続けてきた情報発信のおかげで、カスタマーサクセスに取り組む方は名前くらいは聞いたことがあるかもしれせんが、実のところ直近2年間は事業が停滞し、eNPSが下限の-100を叩き出すほど組織が壊れ、窮地に追い込まれていました。なぜ僕たちは暗黒期に突入してしまったのか、その原因を結論から書くと、
誤った目標設計
回らないプロダクトのフィードバックサイクル
フォーカスの甘いプロダクト開発
事業ドメインと相性の悪い技術スタック
上記4つの合わせ技でモメンタムが失われ、スタートアップの魔法が切れた。
と整理しています。僕たちと同じくアーリー期で雌伏の時を過ごす周囲の起業家とこの件を話すと、皆ほとんど同じ原因で苦労していることに気づきました。「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」と言われますが、僕たちの経験はSaaSスタートアップにとって一定の再現性があるかもしれません。
この文章は日本から世界を代表するSaaSが生まれることを願って、同じ状況で苦しむ起業家や創業初期のSaaS関係者、エコシステムへの貢献をモチベーションとして書いています。(願わくば将来一緒に働く仲間にも届いて欲しい!)
後半ではこの状況からどのように抜け出し、高いモメンタムを取り戻したのか、そしてこの経験から何を得たのかについて説明します。(以下常体で記載、7,000字あります🙇♂️)
創業から暗転までの道のり
日本を代表する会社に
今では当たり前になった「カスタマーサクセス」というキーワード。創業した2017年当時、国内ではまだほとんど認知されていなかった。この領域でプロダクトを作ると決め、多くのヒアリングを重ねたが、SaaSの現場ですら「ヘルススコア」という言葉を初めて聞くという人が多かった。それでも、生産労働人口が減少し既存顧客との関係性に注目が集まるのは必然であり、数年のうちに日本でも「カスタマーサクセス」という考え方が普及するだろうと考えていた。
そしてなにより、この領域で日本を代表する会社を作りたいという気持ちが強かった。いつか大きなメディアに取り上げられたときに、何をやっている会社かひと目で分かるように「Customer」か「Success」を。企業とユーザーの距離を近づけ、顧客志向なサービスを増やすコミットメントとしてフランクな挨拶である「Hi」、これを繋げてHiCustomerという社名にした。
共同創業者との再会
時間を少し巻き戻して創業前。アイディアを一緒に形にできるエンジニアを探して七転八倒しているときにVCの友人から「新しい人より、今までの縁を手繰り寄せた方がよいよ」とアドバイスを貰い、久々に会ったのが共同創業者となる肥前くんだ。以前の職場で一緒に新規事業を立ち上げた経験もあり互いに人となりは理解していた。僕の話すアイディアについては正直わからん、という感じだったが、時流に乗っていそうということと、プロダクトをゼロから立ち上げることに強い興味を持ってくれていたので、週末プロジェクトから始まりそのまま一緒に会社を創業した。
コミュニティを初期ユーザーに
創業期はプロダクトの開発と並行しコミュニティへの情報発信に力を入れた。今でこそ日本語の文献が増えたが、当時、カスタマーサクセスに取り組む方々にヒアリングすると、自社の取り組みに自信を持てていなかったり、海外含む他社がどのような取り組みを行っているか、興味があるが知るすべを持たない人が多かった。なので、Facebookグループを作りそこで海外トレンドを発信したり、オフラインイベントや人を繋ぐ飲み会を開催したりした。それが功を奏し、カスタマーサクセスに詳しい人という認知が作れ、多くの人に取り組みを応援してもらえる状況になった。これが初期ユーザーの母体となる。
無用な焦りが引き起こす暗転
2018年、プロダクトの正式リリースを行う。コミュニティから転じた初期ユーザーと各種メディア掲載もあって、デモ申込み数、有償契約率に関する初速は順調だった。海外で先行するカスタマーサクセスプラットフォームはとにかく出来ることが多い。これからHiCustomerに実装するべき機能リストのことを考えると、早いタイミングで大型の調達を仕掛けたい。そして、国内におけるポジションを盤石なものにし、いつか進出してくるだろう海外勢への優位性を築きたい、その無用な焦りから後々まで尾を引く意思決定ミスを行うことになる。
永遠に訪れないPMF
MRR数百万円までは比較的順調に推移した。正式リリースから1年以上経過し、開発体制は拡充され、機能は増えている。それなのに、本来は上がるはずの受注率が横ばいからついに微減する。何かがおかしい。カスタマージャーニーを可視化し、顧客の業務フローとプロダクトの機能を重ね合わせる。業務フローを回す上で重要な機能が足りていないことは明確だったが、「プロダクトひとつ分」と言えるほど大きな機能でリリースまで半年以上時間が掛かることが分かっていた。それでもこの機能ができれば事態は好転すると信じ、モックを作り、ヒアリングを重ね、夏から開発に着手する。バグ修正やセキュリティ対応以外ほぼすべての開発リソースを投下し、リリース間近となった2020年冬、深夜。エンジニア全員から連名でSlack...