comot.prelol.com
中野 幼いころから音楽と関わってきたCocomiさんに、子供のころを振り返って、音楽の効能を感じた経験を教えていただけたら、と思います。
Cocomi これは私自身の記憶ではなく母に聞いた話なのですが、私が母のお腹の中にいたとき、母はずっとクラシックを聴いていたそうです。母は仕事で歌うのはポップスですし、それまではほとんどクラシックを聴くことはなかったそうなのですが、私を身ごもってからはなぜかヴィヴァルディの「春」がとても心地よくてずっと聴いていた、と。
中野 なるほど。Cocomiさんがクラシック好きなのは、胎児だったときに聴いた音楽の影響を受けているのかも、と思います。しかも、大事なのは、それが、お母さん自身が聴いていて心地が良い音楽だった、ということです。耳は、胎児の発達において早い段階で形成される器官です。だから、お母さんが聴いている音楽も骨から響いてちゃんと聞こえているんですね。
Cocomi そうなんですね。私が生まれた後も、クラシックを聞かせてくれたそうです。
中野 だとすると、影響はかなりありそうですね。
Cocomi 物心ついてからも、ヴァイオリンの音を聴くのが好きで、それは今も変わっていないですね。フルートを演奏するようになってからも、自分で聴くという意味ではヴァイオリンの音がいちばん好きかもしれません。チャイコフスキーやシベリウスのヴァイオリン協奏曲がとても好きですね。
中野 ドラマティックな曲ですね。海馬ができてくるのは3歳くらいなので、そうした記憶ははっきりした意味記憶ではなくて、別の形で記憶されているのでしょう。3歳以前の記憶は大脳以外の別のところに格納されていて、身体的な記憶みたいな形で記憶されているとされています。文字や言葉やはっきりしたヴィジョンではなくても、演奏しているときに「あ、この感じ、懐かしい」とか「あ、この感じ、くるな」とか、という感じがあるなら、ひょっとしたら0歳から1歳くらいまでの記憶が生きているのかもしれません。よくよくヴィヴァルディを聴き直してみると「あ、ここ」とか、気づくところがあるかもしれませんよ。
Cocomi 面白いです。
中野 先ほども触れましたが、耳という器官は本当に早い時期にできてしまうので、その時期にお子さん自身が安心できていることが大事ですし、そのためにはお母さんが安心していることが大事です。お母さんの気持ちやストレスの状態によって、汗の質や体臭が変わるがわかっています。それが嗅覚を通して子供に伝わったりするので、お母さんは、自分が安心できる曲を聴くのがいいんです。
Cocomi その説は私も聞いたことあります。
中野 Cocomiさんがお腹にいる間や0歳児だった頃に、お母さん自身が好きな曲を聴いて過ごしてくださったのは、とてもよかったと思います。
Cocomi 母に感謝、ですね。
幼い頃から音楽を学ぶと、マルチタスク機能が成長する。
シャツドレス ¥600,000 ベルト ¥98,000 シューズ ¥106,000 ネックレス ¥180,000 イヤリング ¥72,000 リング ¥33,000(シューズを除きいずれも予定価格)/すべてDIOR
Cocomi 先ほど3歳以降は海馬ができてきて記憶が形成されるというお話がありましたが、幼いころから楽器を習ったことによって、その後の脳の発達に影響することはありますか?
中野 それについては、7歳より後で音楽を始めた人と7歳以前に音楽を始めた人を比較した実験があります。私たちの脳には右脳と左脳を結んで橋渡しする脳梁と呼ばれる部分があるのですが、7歳以前に音楽を始めた人はそうでない人よりもこの部分が成長しているんですね。とくに脳梁の後ろの方が成長しているので、マルチタスク、つまり同時にいろいろなことに目配りできるんです。
Cocomi マルチタスク、自分ではできているかどうかわからないですが(笑)。
中野 でも、例えば撮影のとき、シャッターを切っているカメラマンの方だけでなく、メークさんやスタイリストさんや、その場にいるいろんな人に知らず知らずのうちに目配りしていたりしませんか?
Cocomi 言われてみれば、そうかも。
中野 そういうマルチタスクの機能が、7歳以前に音楽を始めた人は、そうでない人より高くなることは科学的にわかっています。だから音楽は早くから始めるに越したことはありません。音楽家になる、ならないにかかわらず、どんな人でも音楽は幼い頃からやったほうがいい。今の科学では、そのほうが発達にとてもよいとされています。早くから楽器の演奏を習い始めたのはとてもよいことでしたね。音楽を聴くことだけでも効能がありますが、演奏することは、脳の発達にとって、また別の有利な条件になります。
Cocomi 演奏することにはそんな効果があるんですね。
中野 IQが少し上がるとか、語学が得意になるという効果も知られています。ですから、子どもに習い事をさせるなら、私は絶対に音楽をおすすめします。Cocomiさんが幼いころから音楽を習ったのは、すばらしい選択だったと思います。
子どものように音楽を素直に楽しむことが発見をもたらす。
ジャケット ¥369,000 トップス ¥40,000 パンツ ¥290,000/すべてTHE ROW ネックレス ¥62,000 イヤーカフ ¥20,000/ともにTOMWOOD
中野 Cocomiさんはお子さん向けの演奏会で演奏された経験があるそうですね。
Cocomi はい、音楽科の高校時代に学校で「子供向けに『管楽器を聴こう』という演奏会がありますが、出演する人はいますか?」という呼びかけがあったので、立候補して演奏しました。
中野 聴き手が子どものときと大人のときとでは、演奏しているときに感じることが違ったりしましたか?
Cocomi 私が演奏したときは、泣く子もいれば寝てしまっている子もいて、本当に十人十色なリアクションで興味深かったです。音楽教室に通っている5、6歳の幼い子どもたちのための演奏会だったのですが、子どもたちが自由に過ごしている様子を見ていると、吹いている私たちもなごんで緊張が解けていって、とても面白い経験でした。
中野 曲によっても子どもの反応は変わりました?
Cocomi 演奏した後で「どの曲が好きだった?」と尋ねたら、「いちばん速かったやつ!」という感じで、あいまいな表現だけどストレートに素直に反応してくれて、うれしかったです。
中野 素敵な経験ですね。お話を聞いていて、思い当たったことがあります。美術では今、VTS(ヴィジュアル・シンキング・スタディーズ Visual Thinking Strategies)という教育プログラムが注目を集めているんですね。ニューヨーク近代美術館(MoMA)が行っているものですが、何をやるかというと「絵を見て考える」ということなんです。
日本の美術教育では絵を鑑賞するときに、すぐに「この絵は誰が何年に描いたもので、当時はどんな絵の具を使っていて、社会状況はこうで……」と情報を詰め込んでしまうのですが、VTSの場合はそういう情報は一切なしで絵と向き合います。例えば、モネの絵を見せて「これを見て何を思うか」と尋ねます。すると、子どものなかには「カエルがいる!」と言う子もいたりします。もちろんカエルは描かれていません。「カエルはいないよ?」と言うと、「今、水の中にもぐっているの」と答えたりするんですね。VTSでは、こういう答えについて、みんなで否定することはしないんです。それぞれ何が見えるか、何を感じるかを語ってもらって、それについてまた語り合って、その作品を受容していく、という教育プログラムです。
そして、これを美術教育で実践すると、他の科目の成績も上がるという実験結果が出ています。それもあって、今とても注目されている教育方法なのですが、音楽も同じようなことをするととても面白いのでは、と考えます。例えばある曲を演奏して、情報などは一切抜きにして、「この曲についてどう思いましたか?」とシンプルに問いかけてみる。「速くて目が回りそうだった!」という子もいるかもしれないし、「心臓がバクバクした」「ここのリズムが好き」「一瞬、音が止まるところにときめいた」とか、いろんな反応が出てくる可能性があると思います。例えば、ある学期についてそういうワークショップを実践したグループとそうでないグループについてデータをとってみたら面白いかも、と思います。
Cocomi そういえば、いちばん音楽性が合う友人とは、ひとつの曲を聴くたびに「どこが好きだった?」という話をしますね。
中野 それはすごくいいですね。
Cocomi 「ここがたまらなくよかったよね」「あ、わかるー!」という感じです。お互いが曲を聴いて快感を得たところを共有しあって、それを目指して自分も演奏しよう、と実践したりしますね。
中野 人と感想を共有すると、発見もありますよね。VTSの場合も、これまで気づかなかったところに良さを見出したり、「あ、そういう見方もあるんだ」と気づいたりします。すると、一つの作品が立体的・多面的に見えてきます。VTS の場合も、「立体的に見る」ということが、どうやら認知力や学力の向上に効いているのではないかといわれています。VTSは、日本でも、先進的な美術館などでようやく取り入れられてきています。
Cocomi 面白そうです。
中野 実は、Cocomiさんを見ていてとてもいいなと思ったことがあります。それは、音楽とモデルという2つの道を歩み始めたということ。これは他の人にはない、ユニークな強みですね。この2つの道を通してCocomiさんが今、目指していることはどんなことですか?
Cocomi 私の夢や目標は、クラシックの楽しさ、面白さをもっとたくさんの人に知ってほしいということなんです。残念ながら昔に比べると、クラシック音楽は今、人気が高まっているとはいえません。衰退しているという印象です。
中野 そうですね。
Cocomi 衰退する理由は、ポップスに比べて新しい魅力がなかなか発信できていないということにあると思っています。昔からの古い作品を演奏することがほとんどで、それはそれで大切なことですが、同時にクラシックや器楽曲の新しい魅力を伝えていくことも重要ではないかと思っていて、それに挑戦したいと思っているのです。
中野 それはすごくいいことですね。一般の人にとってクラシック音楽は、ジャンルとしては知っていても、聴くのは……。
Cocomi 敷居が高い感じがしますよね。
中野 その敷居の高さって、コンサートのチケットの値段というよりもクラシックを知っている人、クラシックファンの人たちは知識が膨大なせいで、それを知らない人はなかなか入っていきづらいという事情があるような気がします。
Cocomi ハードルが上がってしまう感じはありますよね。
中野 そのハードルを低くしてあげる人、つまり「クラシックの知識や楽しさをわかりやすく伝える翻訳者のような人」が必要ですね。実際、人気のあるクラシックの演奏家はそうした翻訳者の役割を進んで担っていると思います。そもそも音楽の原点は楽しませることにありますし、楽しんでもらってこそ、ですよね。
Cocomi はい、音楽の楽しさを伝えることは、私の大きな目標です。これからもがんばりたいと思っています。3回にわたってのためになる対談を本当にありがとうございました。
Profile
Cocomi
音楽家。東京都出身。3歳からヴァイオリンを、11歳でフルートを始める。現在もフルートをN響・神田寛明氏に師事。また、ヴラディミール・アシュケナージ、エマニュエル・パユのマスタークラスを受ける。2019年、日本奏楽コンクールで最高位(1位なしの2位)を受賞。管楽器部門1位とともにフランス近代音楽賞受賞。ヤマノジュニアフルートコンサートコンクール優秀賞3回、最優秀賞1回並びに特別賞受賞。また、2018年、2019年と2度全日本学生音楽コンクールを受け、2度入選するほか、コンクール歴多数。桐朋女子高等学校音楽科卒業。
中野信子
東日本国際大学特任教授、脳科学者、医学博士。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了後、フランス原子力庁サクレー研究所で研究員として勤務。現在はTV番組のコメンテーターとしても活躍中。著書は『あなたの脳のしつけ方』(青春出版社)、『女に生まれてモヤってる!』(ジェーン・スーとの共著、小学館)、『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ新書)など多数。
問い合わせ先/
クリスチャン ディオール 0120-02-1947
ザ・ロウ・ジャパン 03-4400-2656
ステディ スタディ(TOMWOOD) 03-5469-7110
【あわせてチェックしたい Cocomi×脳科学者・中野信子の対談】
・Cocomi×脳科学者・中野信子の対談Part1。音楽を聴くことが人をどう変える?【新世代のミューズCocomiが学ぶ】
・Cocomi×脳科学者・中野信子の対談Part2。子供時代から音楽に親しむことの効果とは。【新世代のミューズCocomiが学ぶ】
Photos: Kazumasa Kawasaki Stylist: Chie Atsumi Makeup: Yusuke Saeki (for Cocomi) Hair: Shuco(for Cocomi) Hair make: Akane Nosaka (for Nobuko) Interview & Text: Junko Kawakami Editors: Maki Hashida, Kyoko Muramatsu
Let's block ads! (Why?)
"それが好き" - Google ニュース
June 07, 2020 at 10:01AM
https://ift.tt/30dQVdK
Cocomi×脳科学者・中野信子の対談Part3。子供時代から音楽に親しむことの効果とは。【新世代のミューズCocomiが学ぶ】 - VOGUE JAPAN
"それが好き" - Google ニュース
https://ift.tt/2uz367i
Mesir News Info
Israel News info
Taiwan News Info
Vietnam News and Info
Japan News and Info Update
https://ift.tt/2SIu0T8