コミュニティ・スクール(以下、CS)って何? ちょっと聞いたことはあるけれど、どんなモノかはよくわからない、という人がほとんどでしょう。
CSというのは、学校と保護者だけでなく地域の人もいっしょに、学校運営に取り組む仕組みです。しかも、学校に言われたことをただやるのではなく、保護者や地域住民の声を学校運営に反映する、というのがスゴイところ。協議は、各学校ごと(または複数校ごと)に設置された「学校運営協議会」というところで行います。
主な役割は「校長がつくる学校運営の基本方針を承認する」「学校運営について、教育委員会や校長に意見を言える」「教職員の任用について意見を言える」の3つ。
文部科学省は、十年以上前からこの仕組みを全国に広めようとしていますが、現在CSの導入率は約27%(2020年7月時点/実施状況調査リンク)。学校のお手伝いをする「地域学校協働活動」の実施率が約6割なのに比べると、はっきり言って不人気な印象ですが、確実に広がってきてはいます。
CSは法律にも定められており、各地の教育委員会には、学校運営協議会を置く「努力義務」があるとされています。(地方教育行政の組織及び運営に関する法律/条文解説リンク)。
ここで、浮かんでくる疑問があります。CSがあるなら、PTAの役割って何なのか? 現状、保護者(役員さんだけでなく保護者全体)の意見を学校に伝える役割を果たしているPTAはあまりないですが、でも現実に保護者と学校にとって最も必要なのは、まさにその機能ではないかと筆者は考えてきました。でもそれをCSが担うなら、いよいよPTAはなくてもいいのかもしれず?
筆者は以前、地域学校協働活動についても同様の疑問を抱きました。これから、地域学校協働活動で学校のお手伝いをするなら、PTAはもう不要では? と考え、この仕組みの発祥の地である杉並区の井出教育長(当時)に尋ねたのです。すると井出教育長は「PTAはそもそも学校のお手伝いをする団体ではない」ときっぱり。つまり逆に言えば、もしPTAを学校のお手伝い組織と定義するなら、地域学校協働活動で代替可能であり、PTAはなくてもOKと考えられます。
では、CSについてはどうなのか? 今回はそんな疑問を胸に、CS先進地の一つである三鷹市で長年CSにかかわってきた、四柳千夏子さんにお話を聞かせてもらいました。四柳さんは2000年頃から、幼稚園や小・中学校のPTA会長、地域コーディネーター、CS委員会の会長などを務めてきました。現在は文科省の委嘱で「CSマイスター」もしている四柳さんは、CSやPTAの役割を、どのように考えているのでしょうか?
- 取材は2021年3月に行いました
*「PTA」は役割の見直しが必要だった
四柳さんが初めてPTA会長を経験したのは、子どもが幼稚園のときでした。お遊戯会のときにみんなで出し物をしたり、年少さんから年長さんまで役員みんなでおしゃべりをしたり。20年前は、時間にゆとりのある母親がいまよりずっと多い時代でもありました。こういうのって楽しい。それがPTAに対する、四柳さんの素朴な実感でした。
小学校のPTAでも知人に声をかけられ、本部役員やPTA会長をやることに。ときには保護者同士の対立を見て震えあがったこともありますが、それでも「みんなで話し合って何かを生みだしたり、議論して結論を出したりすることがとにかく楽しかった」と振り返ります。
四柳さんがCSを初めて体験したのは2009年4月。中学のPTA会長時代でした。最初はCSが何をするものかよくわからなかったものの、やっているうちにだんだんと「学校が目指す教育目標や計画について協議し、承認する」という役割を認識したといいます。
――CSができて、PTAが置かれた状況は、どう変わったんでしょう?
大きく変わったのは「学校の近くにある組織がいろいろできた」という点だと思います。私が小学校のPTAをしていた頃は、学校にかかわる保護者の組織はPTAしかありませんでしたが、いまは登録制で授業のサポートに入る「学習ボランティア」やCS委員会など、いろいろあります。
だからいま考えると、CSができたところで「じゃあ、『PTA』って何をしなきゃいけない組織なのか」という、役割の見直しをしなければいけなかったと思うんです。それをしないでここまで来てしまったから、PTAは自分たちの存在意義がわからなくなっているんじゃないかなって、傍から見てすごく感じます。だから負担感ばかり増していくんじゃないのかな、って。
――たしかにそうかもしれません。ずばりお尋ねしますが、地域学校協働活動やCSがあれば、PTAってもう要らなくはないでしょうか?
現状のままなら、私もPTAは、もしかすると、もう要らないのかなと思います。ただし「保護者の声や意見」は学校に絶対必要なので、それはCSのなかに取り入れられるべきですし、反映されていかなければいけないと思います。よく「PTA」と「保護者」を同じものだと思っている人がいますが、違うものですよね。ごちゃ混ぜになっているけれど、そこは分けて考えなければなりません。学校運営に保護者が不要だ、という話ではないのです。
――よくわかります。ではなぜ、地域学校協働本部やCSを広めるとき、PTAをなくす話にならなかったのでしょう。もしかすると、遠慮があったんでしょうか?
誰に対する遠慮だと思いますか?
――PTA、あるいは「PTAは絶対になければならない」と信じている人たちへの遠慮でしょうか。PTAって普段は前例踏襲で活動しているのに、「地域に〇〇の活動や権限を移す」とか「先生が〇〇の活動は要らないと言っている」などと聞くと、急に「我々のこの活動を守らねば!」と盛り上がるの、わりと見かけるじゃないですか。
わかります、わかります(笑)。急に、パワーを出してきますね。
――そのせいで、文科省や教育委員会はPTAに「もう、やめてもいいんですよ」と言えなかったんじゃないでしょうか?
遠慮というより、何かを「なくす」ということに対して、すごくマイナスなイメージがあるんだと思うんです。本当はそういう問題じゃないと思うのですけれど。
たとえば、もうCSで広報紙を出しているところなら、PTAの広報紙は出さなくてもいいのかもしれない。家庭教育学級(*1)も、PTAに補助金が出るからというのでイヤイヤやっているなら、CSでやるからいいよ、と思う人はたくさんいると思うんです。でもPTAは「手放していいんだよ」と外から言われると「いやいや、これはPTAがやらなければならないのです」みたいな話になる。
――よく見かけます(笑)。
それもきっと、本質が語られていないからだと思うんです。PTAってそもそも何のためにあるのか、CSは何のためにあるのか、という本質が語られないから。PTAが担うべきと考えられてきた役割や機能を、地域学校協働活動やCSが担うのであれば、今度は自分たちは保護者としてどうそこにかかわっていくか、という考え方もできると思うんですけれど。
いまは算数の集合体みたいに、担う役割が重なっているのに、それぞれが「自分たちのテリトリーは絶対守らなければ」みたいになっている。重なっている部分は誰が担うか、相談して見直せばいいと思うんですけれど、その議論をしていないですよね。やっぱりもっと、保護者も含めた地域の人たちがみんな、自分たちの垣根を取っ払って対話をすると、スクラップ&ビルドが進むんじゃないですかね。
*CSと地域学校協働活動が混同されるワケ
――よく、地域学校協働活動(本部)とCSが混同されているようです。地域学校協働活動は学校のお手伝いの実働部隊、CSは参謀というか、話し合って策を練る部分ですよね?
そうなんです。私もいろんなところにCSの話をしに行くんですが、地域学校協働活動と、CSの違いがわからないという人が多いです。CSの機能は、学校と地域が「こういう子どもたちに育てようね」というビジョンや目標、方向性を共有したりするところ。
地域学校協働活動は、地域で行われている子どもたちのためのさまざまな幅広い「活動」を指すのですが、両者の機能の違いなどが、学校・地域の現場でははっきり線引きできません。だから、わかりにくいんですよね。
特に三鷹市の場合は、CS委員会の活動の一つとして学校支援の部会を置き、そこで(地域学校協働活動の)活動をしているので、余計わかりにくいかも。
――そういう背景から、地域学校協働活動を「CS」と呼ぶこともあるんですね。よく「どっちの話ですか?」と混乱してしまいます。
これは今、文科省が整理をして示していますが、各教育委員会のほうでも、その整理をする必要があるかな、と思います。
PTAについても、(地域学校協働活動を含めた)CSとの役割の違いがわからない、という人が多いですよね。やっぱりPTAは「学校のお手伝い組織」みたいになっていることが多いので、そこでも整理がつかなくなっている。しかも、CSも地域学校協働活動もPTAも、やっている人は同じような顔ぶれなので、余計に区別がつきづらくなっています。
なので、そこにいる人たちが「これはCS」とか「これは地域学校協働活動」とか、頭のなかで整理をつけていく必要があります。
特にCSは、法律に位置付けられているので、与えられた権限をちゃんと認識していないといけないと思います。やったからには責任が生じる、というところも理解しておく必要があります。
*「子どもたちにどんな力を身に付けてほしいか」
――CSは具体的に、どんなことを議論したり承認したりするんでしょう?
具体例ですか、ちょっと待ってくださいね……。これです(文字がびっしり、何十頁にわたるA4の紙の束)。これは令和3年度の、ある学園・学校の経営基本方針です。これ全部、今年度の承認事項なんですよ。三鷹市は中学校区でCSになっているので、3校分ですが。
――それ全部、ですか!?
全部です。これを読み込んで承認しないといけないんです。議論できると思いますか?
――いや、思わないです…。その量なら「去年通りでいいんじゃない」と思ってしまいます(苦笑)。議論するなら、学校のほうから「ここの部分について、どうですか」って聞いてもらわないと、どうしようもないのでは。
おっしゃるとおりです。私も最初にこれを読んだとき「これ全部学校がやるの?!」と驚きました。
ですので校長先生には「うちの学校は、特にここの部分に力を入れてやりたいと思っているんだ」ということを語ってもらいたい。そうすれば私たち地域住民や保護者にわかりやすく、賛同もしやすいですし、それを実現させるために私たちが一緒に何ができるかを考えやすくなります。
たとえばうちの〇〇学園は「防災教育」に力を入れていきますと校長が説明したとします。それに対して「防災教育によって、子どもたちにどんな力を身に付けてほしいか」を、学校と私たちが学校運営協議会の場で共有する。
さらに「具体的にどういうふうに、これをやっていこうと思っているんですか」と質問をしたり、「防災教育なら、どこそこの地域団体もいっしょにやったほうがいいですよ」と意見したりする。そして一年間が終わったら「書かれていた通りやれたね」とか「ここの連携ができなかったね」と振り返る。
そのPDCAをまわしていくのが、CSの役割です。このうちのD(Do)のところを地域学校協働活動が実践して、PCA(Plan Check Action)をCSがまわしていくイメージです。CSの委員は、議論のなかで「たとえばこういうことをやってみたらどうだろう」という話になったとき、自分が頑張るのではなく「そういえば、あそこに、あんな人がいるよな」と思った人を巻き込んでいく役割を担うのです。
議論をする、というのが、わかりにくいんですよね。私たちもそうでしたけれど、一番わかりやすいのは活動をすること。だから、どうしても何かやりたくなっちゃうんです。「話し合ったら、やってみよ」みたいな。(協議会で)議論する、というのは、日本人にとって苦手なところかもしれないですね。
(続く)
次回は、CSを形だけのものにせず、有効に使っていくために何が必要か、CSを通して多様な保護者の声を学校に届けるためにはどうしたらいいかなど、掘り下げます。
なお、この取材に関する筆者の考察は『教職研修』(教育管理職のための総合研修誌)の連載に執筆します。
- *1 家庭教育学級は自治体(教育委員会)が実施する保護者の勉強会ですが、実施しているところとしていないところがあります。実施している場合は、主に小・中学校で開催され、企画から実施までPTAが担うことが大半です。PTAが家庭教育学級を実施すると、教育委員会から補助金が出ることが多く、PTAの保護者からはしばしば「やめたくても補助金が出るからやめられない」という声が聞かれます。
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May 01, 2021 at 08:00AM
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