前回のインフラシェアリングとともに、今年注目を集めそうな話題のもうひとつが、「電波オークション」ではないだろうか。今回は、電波オークションについて考察していきたい。
現状、日本は電波オークション的要素を一部取り入れた比較審査方式
電波オークションとは、国が携帯会社などに必要な周波数を割り当てる際に、各社から入札を行う方式のこと。単純に高額を提示した携帯会社が全ての周波数を獲得できるわけではないが、入札額の高さが当落に大きく直結する仕組みとなっている。
一方、これまで日本では比較審査方式が採用されてきた。
比較審査方式とは、周波数を割り当てる際に複数の基準を設け、申請した携帯会社がそれらをどのくらい満たしているか審査する仕組みだ。
最近の例を出すと、5G向け周波数帯(3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯)では、携帯会社にエリア整備の計画(基盤展開率)やMVNOの活用度合い、財務状況などについて基準を設けて審査が行われた。
そもそも電波オークションについては、2011年頃に一度導入へ向けた議論が行われたものの、頓挫した経緯がある。
日本では落札額が高騰し、設備投資が遅れたり、通信料金がアップしたりすることを懸念する携帯会社と、比較審査方式を推進したい総務省の利害が一致。極端な言い方をすれば、携帯会社にとって競争力の源泉は周波数の獲得にあり、そのサジ加減を握るのが審査項目を組み立てる総務省ということになる。
結果、携帯会社に対して総務省が巨大な権限を持つというのは、昨年来からの携帯料金引き下げニュースを見ても明らかである。
今やOECD加盟国のなかで電波オークションを導入していないのは、日本だけとなっている。しかし、2021年に行われた東名阪以外での1.7GHz帯の免許割り当て審査では、「特定基地局開設料」を比較審査項目に盛り込んでおり、その意味では、審査項目の一部とはいえ電波オークション的要素を取り入れようとはしている。
NTTドコモの電波オークション支持による波紋
総務省では現在、電波の有効利用の促進と、電波の公平かつ能率的な利用の確保に向け、「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」が2021年11月より開催されている。
検討会は、「我が国の携帯電話用周波数の割当方式の抜本的な見直しを行い、達成すべき条件を確保しつつ、経済的価値を一層反映した周波数割当方式を検討する」ことを目的としている。
電波オークションのメリット・デメリットなど、課題を整理して2022年3月までに一次、同年7月までに二次取りまとめが発表されるスケジュールとなっている。
既に検討会は4回開催されているなかで、電波オークション導入に一貫して消極的だった携帯会社だが、今回初めてNTTドコモが比較審査方式に反対の立場を表明し、注目を集めた。
NTTドコモ社長の井伊基之氏は「今後は多種多様な通信を実現するIoTが増加する。こうした用途に対し、周波数の割り当て時点で5〜7年先の基地局数などの事業計画をもとに比較審査する現行の割り当て方式では、未知の需要に対して柔軟性を確保できなくなる可能性がある」として、電波オークションを検討すべきとしたのだ。
IoTが主流となる5Gにおいては、比較審査方式は十分に機能しないという趣旨だ。しかし、実際は東名阪以外の1.7GHz帯周波数割り当ての際、新規参入の楽天モバイルを優遇したこと(裁量行政)に不満を抱き、ならばと客観性や透明性の高い電波オークションに舵を切ったという見方もある。
こうしたNTTドコモの電波オークション支持の姿勢に、真っ向から反対しているのが楽天モバイルだ。同社は、オークション方式への移行で、資金力の大きい事業者への周波数集中による携帯電話市場の再寡占化や、小規模・後発事業者が不利になることで公正競争が後退する、と懸念を表明している。
一方、電波オークションは海外での数多くの事例から、想定されるデメリットは制度設計で解決できるという意見もある。たとえば、獲得可能な周波数に上限を設定する「周波数キャップ」や、小規模事業者に対する落札額の割引などだ。
総務省の役割と今後の論点
1月の日経新聞の記事によれば、総務省は総務大臣の諮問機関である電波監理審議会の下に、第三者で構成する専門部会を新設し、そこで周波数獲得に申請を行った会社の評価を担うという。
評価の主体が総務省から第三者機関へ移るという建て付けにすることで、公平性を担保し、周波数の更新時に活用していくとしている。
しかし、評価の主体が第三者機関に移っても、総務省の管轄下にあることには変わりないわけで、そもそも『振興(アクセル)』と『規制(ブレーキ)』の相反する権限を1つの組織(総務省)に内包していることこそ、本質的な問題のような気がしてならない。
NTTグループや東北新社接待問題を受け、巨大な権力を持つ総務省には裁量行政の排除が求められている。そうしたなか、国民共有の財産である周波数の割当に際しては、当然だが客観性や透明性、公正さが重視されるべきだ。それを実現する制度や組織をどのように設計していくべきなのか。
こうした議論は、これまで電波オークションに対して一律反対してきた放送分野への波及も予想され、そうした観点からも検討会の議論の行方に注目が集まっている。