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東日本大震災で被災した水産加工業の経営者らを10年以上にわたって記録し続けた映像プロデューサー田中敦子さん(81)=横浜市磯子区=が今年、新たに2つのドキュメンタリー映像作品を発表した。被災地域の中小企業がその後どのような道を歩んだのか、全国の他業種の中小企業はこれらの経験から何を学ぶべきなのかを伝えている。(山田祐一郎)
◆「テレビではできない」生々しい思い
「これはもう仕事じゃない。誰かが残さなければいけない記録だ」。2011年4月から22年3月11日まで、宮城県と岩手県の水産加工業の中小企業5社を追い続けてきた田中さんが思いを語る。14年にDVD「被災地の水産加工業 経営者たちの戦いの記録」、17年に「被災地の水産加工業 あの日から5年」を発表。その後も撮影を続け、今年1月に「メディアが伝えなかった復興物語〜水産加工業10年の軌跡〜」を、4月に「東日本大震災に学ぶ〜中小企業の防災と復興〜」をまとめた。
「経営者がカメラの前で借金やローンの額、行政への不満を隠さず語っている。テレビでは表現できない」と話すように、作品には経営者の10年余の思いが込められている。
田中さんが制作した「メディアが伝えなかった復興物語~水産加工業10年の軌跡~」(右)と「東日本大震災に学ぶ~中小企業の防災と復興~」
「雇用が回復し、人々がその土地に定着することが復興。その中心が水産加工業だった」と取材の意図を説明する。14年と17年の作品では、被災した中小企業が政府の補助金を受けるまでの混乱や事業再開後の苦悩が描かれた。今回の作品「10年の軌跡」では、5社のうち1社が18年に倒産したことが明かされた。田中さんによると、他の2社も「いつ倒産してもおかしくない」という。
◆桁違いの借金、負の連鎖
新型コロナウイルスの感染拡大による売り上げ不振、ロシアによるウクライナ侵攻などによる混乱から、生き残りを模索する企業と取り残される企業の明暗が分かれている。「借金のケタが違う。資材や人件費の高騰による値上がり分だけで数千万〜1億円。震災から5年たつと補助金の自己負担分の返済が始まり、震災前からの借金との二重ローンになる。魚が取れず高騰し、商品を値上げすると客が離れるという負の連鎖だ。再開しても働き手が戻らず、新しくした機械の半分は稼働していない」と現地の状況を説明する。
もう一つの作品「防災と復興」では、5社の経験から、他地域、他業種の中小企業が教訓とするべき点を抜粋した。「業務委託先を決めておくなど、災害前のいまやらなければいけないことを実際の事例から知ってほしい」。また経営者のインタビューから、「震災前と同じ考え方じゃ生き残れない」「困ったところからしか新しいアイデアは生まれない」という復興に懸ける姿勢を紹介する。
10年余にわたって被災地の中小企業を取材した田中敦子さん=横浜市磯子区で
◆中小企業が備える手伝いができたら
田中さんは、円谷プロの創設期からのスタッフで、長年、テレビ番組の制作に携わってきた。自身で制作プロダクション「SORA1(ソラワン)」を立ち上げ、震災後はこのドキュメンタリーに絞り、マンションを売却して制作費を捻出。「10年は撮り続けなければ状況は見えてこない」とカメラを回し続けてきた。
10年以上に及ぶ撮影で見えてきたものは何か。「元に戻れば大丈夫と思われていたが、コロナやウクライナ侵攻などずっと苦難が続いている。中小企業はそれに対し、あまりに受け身だった」と田中さん。自身の役割をこう強調する。「今後、私がしなければいけないのは多くの経営者に伝えること。南海トラフ地震や首都直下型地震などが想定される中、中小企業が備える手伝いができたら」
DVDは個人でも購入できる。問い合わせはソラワン=電090(1057)0360=へ。
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からの記事と詳細 ( マンションを売ってまで撮り続けた「経営者が知っておくべき教訓」 震災被災地中小企業の10年 :東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞 )
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