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「死んだらどうなるの」。死期が近づいたことを悟り、こんな不安や疑問を抱く患者らに寄り添うのが「臨床宗教師」だ。宗教者としての経験を生かしながらも、布教や伝道を目的とせず「心のケア」を提供する。緩和ケアの現場で患者に向き合う関東臨床宗教師会の代表で高野山真言宗の僧侶、井川裕覚さん(38)は「患者の悩みや苦しみを解消することはできなくても、重荷を少し分けてもらう伴走者」と話す。 (水谷孝司)
◆僧侶の井川裕覚さん 「重荷を少し分けてもらう」
臨床宗教師になったきっかけについて話す関東臨床宗教師会の井川裕覚代表 =東京都千代田区で
死へと向かう過程にいる患者は、苦しみや悲しみ、つらさ、怖さなどさまざまな感情を吐露する。ただ、治療に直接関係のない感情表現である場合、医療や福祉の専門職から「四捨五入される部分がある」と井川さんは言う。医師や看護師とは異なる観点から患者の悩みや苦しみをくみ取っていくのが臨床宗教師の仕事とし、必要に応じてそれを医療スタッフらと共有している。
患者と接する時は医療スタッフと同じ服装にして、自分から僧侶と名乗ることもない。相手のペースに合わせて先入観を持たない白紙の状態を心がける。カルテも病状の確認程度であまり見ないが、些細(ささい)なことまで見逃さずに蓄積することで、患者を理解していくのを理想とする。
宗教者が心のケアを行うことについては「目の前の困っている人に手を差し伸べたくなるのは教義以前に当然で、理屈を超えた宗教の社会的な責任」と考えているという。宗教には、煩悩を悟りにつながるエネルギーととらえるなど、ネガティブなものに救いを見いだす側面もあることから、宗教者には患者の重荷を分け合う素地があるとも受け止めている。
臨床宗教師は東日本大震災が契機となって養成が始まったが、井川さんにとっても大きな転機になった。自分のお経や葬儀でどこまで救われているのか僧侶として自信を持てなくなっていた時期に大震災が発生し、無力さに襲われた。
そんな中、臨床宗教師の存在を知り、2015年に東北大で養成講座を受講した。しかし、受講中の臨床の現場でも何もしてやれないことを思い知らされ、「挫折体験だった」と振り返る。いくつもの挫折を経たことが、臨床宗教師として患者と向き合う姿勢につながっている。
新型コロナ禍で関東臨床宗教師会としての活動は制約を余儀なくされていたが、今後は能登半島地震の被災地にも他の宗教者団体などと連携しながら、支援に入ることを想定している。
◆医療機関 大きな期待
臨床宗教師の役割への期待を語る渡辺雅貴さん =東京都中野区で
臨床宗教師に対する医療機関の期待も大きい。
2019年の開院当初から非常勤の臨床宗教師をスタッフに迎えている「みやびハート&ケアクリニック」(東京都中野区中央)の渡辺雅貴院長は、終末期の患者が訴える悩みによっては「医療行為を施すよりも、臨床宗教師が話を聞いた方が何倍も効果がある」と評価する。
臨床宗教師は担当医が必要と判断した場合に医療チームの一員として患者に接する。患者の死後、遺族が悲しみを乗り越え、日常生活に戻るための「グリーフケア」も重視しており、臨床宗教師から専門知識を伝えてもらい、医療スタッフがどのタイミングでどんな言葉をかけるのが適切かトレーニングを重ねたいとしている。
<臨床宗教師> 東日本大震災を契機に養成が始まった宗教者による心のケアの専門職。寺院や教会に属さずに奉仕する欧米の聖職者「チャプレン」がモデルになった。大震災の被災地で仏教や神道、キリスト教など宗教、宗派を超えた宗教者が心のケアに協力したのが原点となり、2012年に東北大で養成のための講座が開設された。現在は上智など他大学にも講座は広がっている。被災地だけでなく医療、福祉の現場での活動も多い。16年に日本臨床宗教師会が発足。18年に資格認定制度もつくられた。23年5月現在で212人が認定されている。このうち関東臨床宗教師会には40~50人が所属している。
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からの記事と詳細 ( 終末期患者や被災者に伴走 臨床宗教師 3・11後に静かな広がり:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞 )
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