●公費解体「全員同意ムリ」
●権利人が音信不通「どうすれば」
能登半島地震で全半壊した石川県内の建物の公費解体申請について「ハードルが高すぎる」と被災者が悲鳴を上げている。申請数(4月30日時点)は16市町で1万棟を超えたものの、県が推計する2万2千棟の5割に届いていない状況だ。手続きに必要な相続権利人全員の同意を集められないほか、片付けが進まないことを理由に申請しない人も。専門家は要件の緩和に加え、片付けをしなくても申し込めるなど制度周知を急ぐよう求めている。
「どうすればいいんや」。半壊した珠洲市内の住宅に住む男性(54)は、公費解体の申請を前に頭を抱える。家屋は亡くなった祖父名義のままで、申し込みには相続の権利を持つ可能性のある全ての人の意思を確認しなければならない。
同意書には実印と印鑑証明が必要だが、権利人であるいとこのうち2人は音信不通。しかし、市の職員に「全員の同意を得て、戸籍謄本などを集めてほしい」と言われ、途方に暮れる。
こうした被災者に対応するため、輪島市は、やむを得ない場合に限り、申請者のみの宣誓書で手続きを可能とした。現時点で利用実績はないものの、今後、必要な同意書を集められない市民が出てきた場合に採用する。
一方、輪島以外の奥能登3市町は宣誓書方式を認めていない。申請者1人が宣誓書を提出しても、後に相続トラブルが発生して行政が巻き込まれる恐れがあるためで、能登町は「導入予定はない」とし、珠洲市も慎重姿勢を崩さない。
穴水町は、相続トラブルがあった場合の法的免責を国に求めており、「国が責任を持つことが担保されるのであれば宣誓書方式も選択肢の一つ」(環境安全課)としている。
県司法書士会の竹田朋匡広報部長も、宣誓書方式の導入には自治体が責任を負わない仕組みづくりが必要と指摘。「柔軟な対応がなければ解体目標は達成できない。あとは首長がある程度、腹をくくるしかない」と話した。
損壊した家屋の片付けが進まないことから、申請しないケースもある。
輪島市で活動する日野ボランティアネットワーク(鳥取)の山下弘彦代表は、被災者の間で「家財を全て家から出さないと公費解体に申請できない」という勘違いが広がっているとした。
山下氏は、搬出が進まないために手続きを思いとどまる人がいることから「行政は、必要のない物は屋内に残してもいいと周知すべきだ」と話した。
県が4月30日時点で白山、野々市、川北の3市町を除く16市町に聞き取った公費解体の申請数は1万279棟で、輪島市が2240棟で最も多く、珠洲市1821棟、志賀町1578棟と続いた。
●志賀でも作業始まる
志賀町は7日、地震で全半壊した建物を所有者に代わって撤去・解体する公費解体に着手した。同日までに1674件の申請があり、町は来年10月までの完了を目指す。
町によると、罹災(りさい)証明書の発行は7日時点で、半壊以上の住家が415件、非住家が1259件。来週中には富来地域中心部の富来領家町でもスタートする。
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