原発事故自主避難者の賠償基準、ようやく5日に見直し議論 実態に見合うか危惧の声 「話聞かずに決めないで」:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

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避難指示区域の被災者ら(奥)に聞き取りをする原子力損害賠償紛争審査会の委員ら(手前)=8月、福島県大熊町の町役場で

避難指示区域の被災者ら(奥)に聞き取りをする原子力損害賠償紛争審査会の委員ら(手前)=8月、福島県大熊町の町役場で

 9年ぶりに見直される東京電力福島第一原発事故の賠償基準「中間指針」を巡り、国の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は5日の会合で、原発から約30〜100キロ圏で指針が定める「自主的避難等対象区域」などの賠償について議論する。被災者側からは見直しを評価する声がある一方、対応の遅さや不十分な救済への批判も強い。(片山夏子)

 見直しのきっかけは、司法判断の確定だった。最高裁は3月、原発事故の被災者らが国と東電に損害賠償を求めた集団訴訟で、指針を上回る賠償を東電に命じた7件の判決について、東電の上告を退けた。福島県内外の約3650人が争った「福島訴訟」の確定判決は、最大で1人300万円の上乗せを認めた。

 これを受け、原賠審は11月10日、ようやく指針を見直す方針を決定。避難指示区域で「過酷な避難状況」などの新たな賠償対象を加える。一方で、自主避難の区域やそれ以外の見直しは、ごく一部にとどまりそうだ。

 福島訴訟の原告弁護団の馬奈木厳太郎弁護士は「見直しの動きが出たのは集団訴訟の成果だが、最高裁判決を待ったのは遅過ぎる。検討内容は判決よりも賠償範囲を狭めており、被害者への聞き取りも不十分だ」と指摘した。

◆避難先で差別やいじめ、何度も「死にたい」

 原賠審による賠償基準「中間指針」の見直しで、これまでに示された論点では、「自主的避難等対象区域」が焦点の一つになっている。子どもや妊婦について、一部司法判断で指針以上の賠償額が認められているのに、見直しに慎重になっているからだ。大人の見直しの内容も十分ではなく、対象となる被災者からは、被害に見合うのか懸念の声が上がる。

 「今からでも、事故当時子どもだった私たちの話を聞いてほしい」。自主避難区域から他県に避難した専門学校生の女性(18)はそう訴える。

 事故当時は小学1年生。避難先では差別やいじめに苦しんだ。「放射能」「福島は汚れている」…。父親は福島で働いて週末に避難先に通い、母親は幼い子どもたちの子育てで忙しかった。親に心配をかけたくなくて、打ち明けられずに1人で抱え込んだ。何度も「死にたい」と思った。

 見直し方針決定の前、原賠審の委員らは避難指示区域の住民の話は聞いたが、自主避難区域は自治体の首長に意見を聞いただけ。「当事者に話を聞かないまま、私たちの被害を知ったかのように決めないでほしい」。実態とかけ離れた見直しにならないかを危ぶむ。

 複数の判決で、自主避難区域の子ども・妊婦は指針以上の賠償が認められたが、原賠審は見直しに慎重だ。「裁判で認められたことすら、見直さないのはおかしい」と批判し、「一番苦しいときに指針が見直されていたら、つらさを認めてくれたと救われた気持ちになったのに…」と話した。

 原賠審は見直しの論点で、自主避難区域の大人は、子どもや妊婦に比べて放射線への感受性が高いとは言えないとして、被ばくの不安だけでは賠償に当たらないとした。一方、事故が続き、さらに放射能汚染が広がることへの恐怖などとの複合的な不安は認め、賠償期間の延長を検討する。

 「最高裁判決が出てからの見直しでは、あまりに遅過ぎる」。新潟県の集団訴訟の原告、菅野正志さん(48)は、自主避難区域の福島県郡山市から新潟市に避難し、今も家族で暮らす。「放射線の知識もない中、子どもを心配する親の恐怖や心労がどれだけ大きかったか。当事者から話も聞かず被害をきちんと認めないまま、賠償期間だけ延長されても」

 原賠審は指針の対象以外の損害でも裁判外紛争解決手続き(ADR)で賠償が認められるとするが、東電が指針との乖離かいりを理由に和解案を拒否する事例が相次いだ。菅野さんは「指針は『最低限補償すべき基準』のはずなのに、東電は賠償の『上限』とする。なぜもっと早く実態を調べ、対処しなかったのか」と憤る。

 本来は裁判の結果に関わらず、国自らが見直すべきだったと考える。「見直しましたというパフォーマンスではなく、今度こそ真剣に被害に見合った見直しをしてほしい」

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