国の「要請」に従っていたら住民の命は… 「指示権拡大」議論のいま 被災地が大切にする「現場感覚」:東京新聞 ... - 東京新聞

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 非常時に自治体に対する国の指示権を拡大する地方自治法改正案を巡っては、実態にそぐわない指示が現場に飛び、かえって混乱を招くとの懸念の声が相次いでいる。実際に、2016年の熊本地震で観測史上初めて震度7を2回記録した熊本県益城(ましき)町では、国の判断に従っていた場合に、さらなる死傷者を出す事態に発展しかねない局面があった。(三輪喜人)

 熊本県熊本地方で16年4月14日夜、最大震度7の地震が発生した。強い揺れが続き、建物内で過ごすことを恐れて外を選ぶ人や車中避難をする人が続出した。

◆益城町には屋内避難を求める政府の「要請」が

 当時、安倍晋三首相は河野太郎防災担当相に被災者への迅速な対応を命じた。河野氏は4月15日の動きとして「首相から屋外に避難している人を確実に今日中に屋内に収容せよという指示があった」とブログに書き込み、震度7を観測した益城町には、政府から屋内避難を求める連絡が何度も来ていた。

 法的には自治体への「指示」ではなく、「要請」の位置付けだったが、そうであっても自治体にとって政府からの要請は重い。町役場は、指定避難所の町総合体育館で、メインアリーナに避難者を入れるかどうか、難しい判断を迫られた。

益城町総合体育館メインアリーナ。熊本地震で被災する前(左)と、2016年4月14日の前震で、天井パネルの一部が落下した後の様子(右)=益城町提供提供

益城町総合体育館メインアリーナ。熊本地震で被災する前(左)と、2016年4月14日の前震で、天井パネルの一部が落下した後の様子(右)=益城町提供提供

 メインアリーナはつり天井の一部が落下し、一時閉鎖の状態だった。入り口のロビーや屋外は避難者であふれ、地元住民や報道機関から開放を求める声が強まっていた。

◆アリーナ開放を求める強い声にぶれなかった町長

 だが、体育館の被災状況を聞いた西村博則町長は、強い余震が頻発していたことで、町職員からの報告なども基に「屋内の設備の損壊など、被害がさらに拡大する恐れがある」と判断。メインアリーナを開放しないことを決めた。当時、益城町の防災係長で災害対策本部事務局次長も務めた岩本武継・産業振興課長は「開放しなかったので、『何て被災者に冷たい町だ』とおしかりを受けた」と振り返る。

2016年4月16日の本震で、天井のパネルや照明がほぼすべて落下したメインアリーナ(益城町提供提供)

2016年4月16日の本震で、天井のパネルや照明がほぼすべて落下したメインアリーナ(益城町提供提供)

 状況が一変したのは4月16日未明。震度7の本震が再び町を襲った。メインアリーナの高さ約30メートルの天井から、1枚5キロ超のパネルや1基7キロの照明がほぼすべて落下した。「パネルが床に突き刺さっていた。中を公開したら、誰も何も言わなくなった」。「要請」に従って屋内に避難させていたら、メインアリーナで多数の犠牲者が出ていた可能性がある。町の検証報告書でも「人的被害を未然に防いだ」とまとめている。

 地方自治法の改正で、国が自治体に必要な事務処理を指示できる「指示権」が広がれば、国の誤った判断に自治体が従わざるを得ない場面が生じる恐れが高まる。岩本課長は、改正案の是非には明言を避けるが、「災害対策本部も逐一指示を出さず、生死に関わる部分以外は、避難所運営もある程度担当者に任せていた」と現場感覚の重要性を強調した。

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