スキーやスノーボード、ウインタースポーツを愛する人たちにとって、「ニセコ」は憧れの地。世界中から質の良いパウダースノーを求め、多くの人が訪れます。近年は、世界レベルの高級ウインターリゾート地としても人気のエリアです。冬はもちろん、夏場も避暑のために長期滞在する方が増えています。
そのような長期滞在にぴったりな宿泊施設の一つが、「ONE NISEKO RESORT TOWERS」。ニセコの中でも、モイワ山や昆布温泉のある静かなエリアに建つコンドミニアムホテルです。ここで働くスタッフは、スキーやスノーボードが好き!という人が大半ですが、中にはウインタースポーツではないものに魅了され、この場所が気に入っているという人も...。
今回はそんな1人、同ホテルで人事や総務を担当している小松大樹さんに、ニセコで働き始めたきっかけやニセコでの暮らし、働き方について話を伺いました。さて、小松さんがここを気に入っている理由とは何でしょうか?
ONE NISEKO RESORT TOWERS
スタッフの住まいは、ホテルの一室
2つのタワーを有する「ONE NISEKO RESORT TOWERS」。エントランス前やロビー、ギャラリースペースは、国立競技場を設計した世界的建築家・隈研吾氏が設計を手掛けました。隈氏は木材をふんだんに使ったデザインで知られていますが、同ホテルも木板を多用し、温かさと洗練さを演出しています。エントランスから入って左手にあるギャラリースペースは、イーストタワーとウエストタワーを繋ぐ廊下の役割も担っています。壁一面が木板を重ね合わせたブックシェルフになっており、思わず写真を撮りたくなるようなステキな空間です。
「お待たせしました」とそのギャラリーを通って現れた小松さん。現在は、総務や人事を担当していますが、少し前まではメンテナンスやハウスキーピングの担当をしていたそうです。「せっかくなのでよかったら客室でお話をしましょうか」と、眺めの良い上の階の客室に案内してくれました。
こちらが木板を重ね合わせたブックシェルフ
コンドミニアムホテルということで、すべての客室にバルコニーとキッチンが備わっており、スイートルーム仕様になっているそう。案内された部屋は1LDKで、冷蔵庫や洗濯乾燥機もついており、まるでマンションの1室のようです。暮らすようにロングステイを楽しめるのが分かります。
「実はウエストタワーの一部は単身者向けの社員寮のようにもなっています。スタッフの中には、ここに住んでいる者もいて、私もここで暮らしています。間取りや広さは少し違いますが、キッチン、バス、トイレ、ベッド、テーブルなど必要なものはすべてそろっていますし、なかなか快適です」
単身向けの社員寮と同じ間取りの部屋を見せてくださいました
元々は取引先。縁があってニセコへ
小松さんは札幌出身。大学を卒業後、一度北海道を出てみたいと静岡県の熱海にある会社に就職します。ホテルに土産物やアメニティグッズを卸す会社で営業として仕事に励みますが、3.11(東日本大震災)のあと、やはり北海道が良いと帰札。「熱海時代は休みのたびに東京へ遊びに行っていましたが、次第に人の多さに疲れてしまい、札幌くらいのサイズ感がいいなと思いました」と振り返ります。
札幌に戻ってからは、帽子の卸、製造販売をしている会社や業務用洗剤を扱う会社などで営業マンとして活躍します。その後、職場で知り合った仲間たちと意気投合し、それぞれの得意な分野を活かそうと会社を立ち上げます。5人で始めたその会社で小松さんは代表を務める傍ら、自らも営業として飛び回っていました。
「5人全員が得意分野の違う営業マン。通信系、飲食系とそれぞれの得意なところを生かした事業部を作り、手広くいろいろやっていました。私は社長をしながら、人手の足りない部分の担当を担っていました」
こちらが小松大樹さん
その一つがハウスキーピング部門で、「ONE NISEKO RESORT TOWERS」は小松さんの担当する顧客だったそう。「ここの室内清掃の業務を請け負っていたのですが、経営が立ち行かなくなり、会社を畳むことに...。ご迷惑をおかけすることを支配人に伝えると、先のことを気にかけてくれ、『よかったらうちで働きませんか』と逆に声をかけてもらいました」と振り返ります。
とにかくお世話になったお客様に迷惑をかけたくないと奔走していた小松さんは、「会社のことが片付いたあと、自分一人が食べていくだけなら、また営業職を探せばいいかなと思っていました。でも、支配人に声をかけてもらったとき、自分がここで働くことで、人手不足解消など少しでもお役に立てるならと思って入社を決めました」と話します。そして、2020年4月から「ONE NISEKO RESORT TOWERS」の一員として働きはじめました。
自由かつフラットな雰囲気の働きやすい環境
小松さんは、前職からの流れでハウスキーピングとメンテナンスのスーパーバイザーを任されます。解散した会社のスタッフで、ハウスキーピングを担当していた気心の知れている女性も一緒に働くことに。業者として出入りしていたときは表面上の様子しか分からずにいましたが、「中に入ってみると、思っていた以上にスタッフのみんなは和気あいあいとしていました。外資系の会社だからかフラットな感じで堅苦しさはなく、むしろ自由な雰囲気でした」と小松さん。スタッフの皆さんと冗談交じりに会話を交わす様子からもそのような雰囲気が伝わってきます。お世話になった会社の役に立てればと入社しましたが、今では働きやすい環境に感謝しているそう。
この6月から総務・人事を任されるようになり、「まだまだ手探りのところもありますが、スタッフにとってより働きやすい環境を整えていきたい」と話します。スタッフ一人ひとりの人間性を尊重しながら、より良い職場環境を整備し、働く側の満足度を高めていくことで、結果として会社にもプラスの効果を生み出すと考えています。
この日、フロントで働いていたのは、リゾートバイトのスタッフさんでした
「冬はウインタースポーツが好きな人たちがたくさん訪れるのでスタッフも集まりやすいのですが、夏はリゾートバイトで沖縄方面へ行く人が多いようで、ニセコエリアのホテルはどこもスタッフ確保に苦戦しています。うちも同じく夏は人手不足で...」と、小松さんは早速ぶち当たった課題に苦笑。コロナの影響で一時期は減ったものの国内外問わずお客さまが戻りつつある中、夏場も人手確保は最優先事項です。
ほかのエリアに比べて海外ゲストが圧倒的に多いニセコは、働きながら英語力がつくとも言われています。英語力をアップさせたい、あるいは身につけた英語力を生かしたいと仕事を求めてやって来る人もいるそうです。「夏冬問わず、そういう方にもぜひ来ていただきたいですね。また、ホテルの仕事はチームワークが大切。コミュニケーション力があり、協調性を重んじることができる方に来ていただけるとありがたいです」と続けます。
ホテルの施設には、随所に木の温もりが感じられました
建物を一歩出れば、そこは山菜の宝庫
小松さんがニセコに移り住み、2年と少し経ちました。ニセコで暮らす魅力や楽しみについて尋ねると、「うちのスタッフはみんなスキーやスノーボードが好き。だから休みの日に思う存分滑れることが魅力なのだと思います」と前置きをし、「でも、僕はウインタースポーツにそれほど興味がなく...」と意外な答えが返ってきました。そんな小松さんの趣味は...
「山菜と温泉です!」
これまた意外な回答。「スタッフの中で山菜採りが好きなのは僕ぐらいでしょうね」と笑います。「住んでいるすぐそばで山菜を採ることができるこの自然環境が素晴らしいと思います。建物を出て、1分もかからずに山菜が手に入るのですから」と前のめりで話します。
静岡から北海道に戻り、次の就職先を探していたとき、「割と時間があって、たまたま家族が山菜採りに行くというので着いていったんです。そうしたら、山菜を見つけるのが楽しくて(笑)」と話す小松さん。それまでは山菜を食べることにもさほど興味はなかったそうですが、「自分が採った山菜を食べてみたら、意外とおいしくて。気がついたらハマっていました」と続けます。
編集部の無茶ぶりに応えて山菜を採ってきてくださいました!(ありがとうござます!)
札幌で暮らしていたころは、休みのたびに日高やニセコなど、自然豊かなエリアへ山菜採りのために遠征。山菜の知識もどんどん増えていき、採ってきた山菜は周りの人に配ったり、家族総出で下処理をして料理をしたりしていたそう。
「採るのも食べるのも好きなのは行者ニンニク。ワラビのように通年採れるものもありますが、季節によって少しずつ採れるものが違うのも山菜採りの楽しみ。行者ニンニクが採れ始めるとコゴミ、ウド、フキと続いていきます。6月中旬から7月にかけて採れる笹竹でだいたい終わりかな」
笹竹に関しては、なんと特注の皮むき機を工場で作ってもらったそう。「大量の笹竹の皮をむくのはなかなか面倒で、たまたま皮むき機を作ってくれるところを見つけたので発注しました」と笑う小松さん。本当に山菜採りが好きなのだとよく分かります。
山菜を採るようになってから、山菜料理のレパートリーも増えていきました。行者ニンニクの餃子、タケノコご飯などのほか、残った山菜はキムチ漬けやだし醤油に浸けるなど瓶詰めにして冷凍。1年を通して山菜を味わえるようにしています。「それでもやっぱり採れたての山菜を天ぷらで食べるのが一番おいしいと思う」と言います。
こちらはホテルにある温泉です
車がなくても十分楽しめるニセコ暮らし
また、温泉も好きで暇があると入りに行くそう。「ここのタワーも温泉が付いていて、温泉入り放題なのですが、時間が合えばほかのスタッフと一緒に周囲の温泉にも行きます」と話します。
実は小松さん、車を持っていません。ニセコで車がないと不便では?と思いますが、「僕の場合は職場と住まいが一緒なので通勤に車がいらないのです。また、徒歩圏内にいくつも温泉がありますし、すぐ目の前が山なので山菜採りにも車は不要。日用品などの買い物は、倶知安の町まで行くシャトルバスが出ているのでそれを使えば事足ります。冬もスキー場までのシャトルバスがあるので、滑りたいときはそれに乗ればいいだけですし」と、車がなくとも十分ニセコ暮らしを楽しめることが判明。車がないとこの辺りで働けないと思っている人には朗報かもしれません。
山菜や温泉というニセコの自然の恵みを満喫している小松さん。
「ニセコは豊かな自然に囲まれた場所。夏も空気が澄んでいて、辺りは目に優しい緑に覆われ、ここにいるだけで癒やされます。都会のようになんでもそろっているわけではありませんが、何もないのが逆にいいのかなと思います。必要があれば札幌や小樽まで日帰りで行けますし、他エリアとの距離感もちょうど良く、暮らしやすい場所だと思います」
このように、ニセコにはウインタースポーツ以外にも楽しみ方や暮らし方があることを教えてくれました。