7月の参院選に合わせて展開した各種選挙で投票率が低い10~30代の空気や声を伝える「選挙どうする?」。宇都宮大地域デザイン科学部の学生とのディスカッションでは、選挙に対する優先順位の低さや政治とのつながりの薄さが見て取れた。石井大一朗(いしいだいいちろう)准教授(コミュニティー政策、若者の社会参加)、三田妃路佳(みたひろか)准教授(政治学)に若者たちの投票行動を促すための方策をたずねた。
―学生は政治・選挙についてどう感じていましたか。
石井准教授
思ったより関心を持っていると感じた。『投票しなきゃ』という感覚は持っているし、聞かれればある程度政策についても話すことができていた。ただ『投票する』という行動には結び付いていないようだ。関心があることと、選挙に対して自分を突き動かす主体性や自発性を持つことは別なのだと思う。
学生さんのディスカッションでは、関心のある政策についても話し合った
―主体性や自発性を持ちにくい要因は、どんなことでしょう。
直接自分が社会問題に接している、もしくは何かに困っている人の方が、選挙を身近に感じると思う。社会経験を積むことでも具体的な社会問題に触れることは多くなる。一方、学生が普通に暮らしているだけでは社会問題に触れる機会が少ない。それから、自分が何かの決定に関わる経験の少なさもある。これらが主体性を生み出しにくくしていると思う。
非営利活動における参加動機は主に六つあるという研究がある。それによると、若者は特にスキルアップや知識が増すなど自己成長が期待できる場面に対しては参加する傾向があると分かっている。動機は人間が本来持っている年齢や属性によって差が出る。だからこそ選挙を促す際も、若者に対して熱心に話すことだけでなく、選挙を通して自身の勉強になるような仕組みがあると学生は参加しやすくなるのではと思う。さらに学生が参加する動機はもう一つあり、それは『レクリエーション』だ。選挙に行くことが単なる義務ではなく、選挙に行くこと自体が仲間と楽しめるものになると、若者も行くきっかけになるのではないか。
またそれ以前の話として、若者が政治に関して仲間としっかり語り合う場が少ない。北欧では小学校から模擬投票をやったり、立候補者の政策などについて学んだりする機会がある。自分とは異なる意見に触れ、互いに認め合うことで選挙に行く動機が備わっていく。
地域づくりのため、空き家を改修して1日限定の駄菓子屋を開く取り組みに参加した学生さんも。ボランティアに参加するのと同様に、選挙に参加する動機があれば…?
―日本ではどのような議論の場が必要でしょうか。
今回実施した議論の中で、投票日当日がそもそも忙しいという意見があった。それは他の用事よりも選挙が優先的にならないことの表れだと思う。例えば今回のような議論の場を学生主体で作ると、よりレクリエーション要素が強まるし、互いの勉強にもなる。身近な問題がどの政策に結び付くのか、今の問題を先送りにすると10、20年後はどうなるのかなどといったことを議論することで、意識のバリアーを下げていくことができるかもしれない。学生の暮らしに直結する学費や就活の話などをテーマに、きつきつした議論ではなく、ニュートラルに意見を出していく。自分と違う観点を持った意見を知ることで違いを確認し、互いに認め合う場を作る必要があると思う。
―関心が薄い層を動かすアイデアはありますか。
ボランティア活動などもそうだが、参加する1回目はハードルが高い。選挙も最初は誰かに誘ってもらえると行きやすくなる。さらに学生の生活リズムに、選挙をどう組み込むかというのも考える必要がある。アメリカではコインランドリーやスーパーなどでも選挙ができる。アクセスのしやすさも大事だ。
交流サイト(SNS)の浸透により、今の学生は炎上を恐れて周りの空気を読み過ぎて、議論する力が弱まっているのではないかと感じる。自分と違う意見に耳を傾けることが大切だが、SNSでは自分が興味関心のある話題にしか触れない。しかも、SNSというのはどこの場所でもどの時間でも接することができる。選挙はこれの真逆。指定された場所で指定した時間にしか投票できない。だから負担を感じるのだと思う。その負担を軽くするために、関心のない人の日常にどう選挙を組み込んでいくか。これも重要だ。
いつでもどこでも、自分の好きな情報に触れられる。そんなSNSに慣れた学生や若者は多い
―具体的には。
今後やってみると面白いと感じたのは、さっきも言ったような自己成長やレクリエーションを選挙とセットにさせるということ。例えば、学生主体で峰の町が活性化するような『選挙割』を地域の人と考える。選挙という機会を通して、まちづくりや自分の勉強になると浸透しやすくなるのではないか。入り口はまちづくりかもしれないが、選挙に参加するきっかけになる。
知識を持つことと、行動することにそれほど相関関係はないことが分かっている。若者への情報提供に意味がないというわけではないが、行動を促すには別のアプローチが必要だ。各政党の政策を勉強してそれが行動に結び付けば理想だが、それは1歩目ではなく2歩目のようにも感じる。
まず全くの無関心層に選挙へ行ってもらうには、自己成長欲求など潜在的なニーズに応えること。それで、ようやく政策の議論など次の段階に進める。主婦や学生など属性によって、参加動機は異なるため、それぞれの動機にしぼってコーディネートすると参加しやすくなるのではないか。強制ではなく、主体的な参加動機をどう促せるかというところから投票率アップを考えることが大切だ。
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