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一度導入が見送られた「周波数オークション」の議論が再び盛り上がっている理由(佐野正弘) - Engadget日本版
総務省は2021年10月21日、新たな有識者会議「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」を開催しました。これはその名前の通り、携帯電話の電波免許の割り当て方を検討するものですが、具体的には「周波数オークション」の導入が最大のテーマとなっているようです。
そもそも周波数オークションとは何かと言いますと、その名前の通り電波の周波数帯の免許をオークションで落札する仕組み。既に海外では多くの国や地域で導入されているものであり、2020年には周波数オークションの理論を考案した米国のスタンフォード大学のポール・ミルグロム氏とロバート・ウィルソン氏が、ノーベル経済学賞を受賞したことでも知られています。
周波数オークションは元々行政側の審査の手間を簡易化するために作られたものなので、メリットの1つは行政の免許割り当てのプロセスをシンプルにできることにあります。オークション形式は極端に言えば、お金を多く支払った会社がよりよい周波数帯の免許を獲得できる仕組みなので審査に手間がかかりませんし、プロセスの透明性も高いので審査を巡ってトラブルや訴訟なども起こされにくくなります。
そしてもう1つ、オークションでの落札費用は国に支払われることとなります。それゆえ周波数オークションの採用で新たに大きな財源を確保できることが、行政側にとって非常に大きなメリットとなってくることは確かでしょう。
ですがその一方で、周波数オークションには携帯電話会社側にデメリットの多い仕組みでもあります。最大のデメリットは落札にお金がとてもかかる仕組みだということ。総務省資料によると最近の諸外国の事例では落札総額が数百億円から数千億円程度とのことで、経営に与える影響が決して小さくないことは理解できるでしょう。
またお金が重要な意味合いを持つことから、お金を沢山持っている企業が金にモノを言わせて周波数免許を買い占め、圧倒的優位を得てしまうといった問題も起きやすくなります。特に規模が小さい事業者にとって、オークションの仕組みは不利に働きやすいのです。
実際周波数オークションの導入が始まったばかりの3Gの時代には、3Gへの期待の高さもあって落札価格が軒並み高騰。その影響で欧州では携帯電話会社の経営が厳しくなり再編が相次いだ上、3G、4Gの整備が大幅に遅れるなど多くの問題が起きていました。現在では仕組みの工夫がなされそこまでの高騰が起きないようになっているようですが、それでも携帯電話会社にとって大幅に支出が増えることは確かで、それがネットワーク整備の遅れや通信量の高騰など、消費者へのデメリットにつながることも懸念されるのです。
そうしたメリットとデメリットがありながらも世界的に広まっている周波数オークションですが、日本ではこれまで採用されたことはありませんでした。それゆえ携帯電話の免許審査には現在もなお、各社の開設計画を見ていつまでにどれくらいのエリアをカバーできるか、周波数がひっ迫しているか、最近であればMVNOの利用を促進しているか……など、さまざまな項目を審査して割り当てを決める、従来通りの比較審査方式が用いられています。
とはいえ過去を振り返りますと、周波数オークションの導入が検討されてこなかった訳ではなく、何度か議論が浮上しては消えるという動きを繰り返しています。とりわけ民主党政権下だった2011年、総務省では「周波数オークションに関する懇談会」という有識者会議を開催して周波数オークション制度の導入に向けた具体的な検討が進められていました。
その結果、翌2012年には周波数オークション導入に向けた電波改正法案が国会に提出。導入間際という所まで来たのですが、国会が解散してその後政権が自民党に移ったこともあってか、結局導入されることなく現在に至っています。
ではなぜ、自民党政権から変わっていないのに周波数オークション導入の動きが再燃しているのかといいますと、携帯料金引き下げで注目された電気通信事業法改正と同様、2019年に改正された電波法が大きく影響しています。5GやIoTなどの拡大で電波の経済的価値が大幅に高まったことを受け、この改正電波法では周波数の割り当てについても制度変更を求めており、その1つに「周波数の経済的価値を踏まえた割当手続に関する規定の整備」が設けられたのです。
これは5Gなど新しい周波数の免許割り当てを申請する事業者が「周波数の経済的価値」を申請し、従来の審査項目にその評価額も加えて審査できるようにすること。審査の結果免許の割り当てを受けた事業者は申し出た金額(特定基地局開設料)を国庫に納付し、特定基地局開設料は国が打ち出す「Society 5.0」の実現のために使用するとしています。
その内容を見る限りではありますが、政府としては周波数オークションを全面的に導入するのではなく、比較審査の一部として導入し、ソフトランディングを図ろうという狙いがあるものと見られます。実際2021年に実施され、楽天モバイルに割り当てられた東名阪以外での1.7GHz帯の免許割り当て審査では、実際に特定基地局開設料が比較審査項目に盛り込まれていました。
ですがその後も行政側から周波数オークション制度の本格導入を求める声が高まっているようで、2021年9月に公表された総務省若手改革提案チームからの低減で、「電波割当てに関する透明性・経済的価値をより高めることも重要」で、「オークション方式の長所も取り入れ、その効果を検証すべき」という意見が挙がっていました。
そうしたことから今後の有識者会議では、日本の環境を考慮しながら周波数オークションをどのような形で実際の審査に取り入れていくのかが、大いに関心を呼ぶことになるかと思います。2022年3月までに第1次検討、2022年7月までに第2次検討がなされるとのことなので、来年の夏頃には一定の結論が出されるようです。
第1回の会合では有識者からさまざまな見解が出ていましたが、筆者としてはこの議論を進めるに当たって、日本の携帯電話産業の世界的競争力を高める視点を重視して欲しいと思っています。世界市場で日本の通信機器ベンダーや端末メーカーの存在感が無いに等しい現状を考慮しますと、競争力を高める上では携帯電話会社の存在が非常に重要ですが、ここ最近の総務省の動向を見ますと公正競争追求のあまり、携帯電話会社の競争力を落とす政策が幅を効かせてしまっていることが非常に気がかりです。
先にも触れた通り、海外でも周波数オークションの導入で携帯電話会社の競争力が落ちた事例は実際にある訳で、制度導入の仕方を誤れば日本の携帯電話会社が持つ優位性が失われることにもつながりかねません。産業育成の観点に立つならば「海外で当たり前なのだから日本での導入も当たり前」というオークションありきでの議論を進めるのではなく、日本を取り巻く現状を考慮し、現実に即していかにオークション制度を落とし込んでいくかという姿勢が必要では、というのが筆者の考えです。
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