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森と海からの手紙:星空に被災者の思いを重ね 東日本大震災13年 - 毎日新聞
taritkar.blogspot.com2万2000人を超える死者・行方不明者を数えた2011年3月11日の東日本大震災。大津波に襲われた岩手県の三陸沿岸部では、電柱もなぎ倒されて、澄み渡った夜空には満天の星がきらめいていた。
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澤田幸三さん(当時52歳)は釜石港に接する一角に住んでいた。震災直後に手元にあったカメラバッグを手に、近所のお年寄りを誘導して近くにある港湾事務所の屋上に避難。津波にのまれてゆく町の惨状を233コマの写真に刻んだ。ファインダー越しに、津波の引き潮に流される家の2階テラスに男女2人の人影を見た時はシャッターを押せなかった。家はそのまま波間に消えていった。
日付が変わって間もない頃、「天を埋め尽くすような星」に息をのんだ。「電気のない時代の人々はこんな星空を見て、天に昇った故人をしのんだのだろう……と思いました」
菊池玲奈さん(同17歳)は、同級生と下校途中に釜石の海辺で「立っていられないほどの激しい揺れ」を感じた。顔見知りのお年寄りを背負って高台の体育館へ搬送。日没後は居合わせた消防士や看護師を手伝い、次々と運び込まれるけが人の世話を続けた。
「頑張ったね。少し外で休んできなさい」。消防士に促されて体育館の庭に出たのは、震災翌日の午前1時過ぎだった。
「(眼下には)闇に沈むようにがれきの山が連なっていで。家族の安否を心配しで涙を浮かべて空を見上げたら、見だごともないほどの大きな緑色に輝く星が、ヒューッて糸を引ぎながら消えていったの」
地震発生直後に自転車で海を見に出かけたまま行方知れずになっていた祖父と、遺体安置所で対面したのは14日だった。「ほおを触ると。しゃっこ(冷たい)かった。じいの自転車もジャンパーも緑色で、(遺体が)見つかったのは流れ星が消えていったところの真下だったの」
「釜石最後の芸者」と呼ばれた伊藤艶子さん(同84歳)には、避難所になった学校の体育館で出会った。「私が人生で経験した4度の津波と、終戦前の艦砲射撃の時も、青く澄んだ夜空で星が輝いていた」。溶鉱炉の噴煙が空を覆いつくしてきた「鉄の街」は廃虚と化し、こぼれ落ちそうな星空には幾重もの生と死の営みが映ってみえた。
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陸前高田市の新田貢さん(同48歳)は、6歳と4歳の娘と、2人を幼稚園に迎えに行った妻(同36歳)を亡くした。
長男(同9歳)と避難所に身を寄せ、妻子の消息を捜し求めて避難所や遺体安置所を回り続けた。長女の琳さんと再会したのは、18日の夕刻だった。「ひときわ小さな遺体袋のチャックの隙間(すきま)に、見覚えのある長い髪が見え、傍らにひよこの形をした幼稚園のバッジがありました」
長男が待っている避難所までは徒歩で2時間近い道のりだった。憔悴(しょうすい)して帰路に就くと、闇に降り注ぐ光を感じ、視線を上げると月が浮かんでいた。「丸みを帯びた月が、あふれ出る涙でグンニャリとゆがんで揺れていました」
大船渡市の仮設住宅で出会った熊谷翔太さん(同8歳)は、父親を亡くした。「夜、空を見たら星の間にお父さんの顔を見つけたよ」と教えてくれた時の笑顔を忘れない。
悲しみの底にうずくまる人々は、その気持ちを言葉にすることができないでいた。震災直後から現地で取材を続けていた私は、そんな思いに接しながら彼らに「夜空の記憶」を問い続けた。そこには、被災者の心象が重なって見えた。
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震災から13年を経た24年3月上旬、三陸沿岸を再訪した。
幸三さんは、震災後も続けていた長距離トラックの仕事を今春で引退することを決めた。「がむしゃらに働いてガタがきた体を休ませようと思います」。退職後は一人旅に出るという。玲奈さんは、高校卒業後に看護師を目指して町を出た。艶子さんは、震災から5年後に逝去。貢さんは、復興住宅で思い出の写真に囲まれて暮らし、翔太さんは成人して東京で働く。
被災地で出会った人々の幾人もが亡くなっていた。顔を思い浮かべ、星空に手を合わせた。【客員編集委員・萩尾信也】
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