映画『コーダ あいのうた』（公開中）主人公の母親ジャッキー役を演じたマーリー・マトリン
来る「第94回アカデミー賞」（ノミネーション発表は現地時間2月8日、授賞式は3月27日）へのノミネートが有力視されている。映画『コーダ あいのうた』（公開中）。聴者の少女の音楽への夢と、聞こえない家族の絆を描いた感動作だ。
本作で、助演女優賞へのノミネートを期待されているのが、主人公の少女ルビーの母親ジャッキーを演じたマーリー・マトリン。1歳半の時に麻疹で両耳の聴力をほとんど失ったが、子どもの頃から舞台に上がり、地元シカゴの児童劇団の舞台「ちいさき神の、作りし子ら」に出演したところを見出され、その舞台を映画化した『愛は静けさの中に』（1986年）で本格的に女優デビュー。「第59回アカデミー賞」にて史上最年少の21歳で主演女優賞を受賞した。それ以来、長きにわたり、さまざまな特徴を持つ俳優がハリウッドで輝くための道しるべを示してきた。
昨年12月、アメリカにいるマーリーにオンラインインタビューを行った。ネットで検索して、付け焼き刃の手話で「こんにちは」（人差し指と中指を立てて眉間にあて、次に両手の人差し指を向かい合わせて立て、お辞儀をするように折り曲げる）とあいさつしたが、通じなかった。通訳を介して「ありがとう、はできますか？」と言われたので、右手を左手の甲に垂直に立て、小指側で甲を軽くたたいてから上にあげる仕草をすると、通じたようで、マーリーも同じ手話で返してくれた。
世界には200以上の手話があると言われている。「手話は世界共通だと思っている方が多くいらっしゃるのですが、違うんです。音声言語と同じように、それぞれの地域の文化を反映した手話が存在するんです」とマーリー。彼女が使っているのはASL（アメリカ手話）。ネットで検索するなら、ASLの「Hello」を調べるべきだったのだ。
映画『コーダ』も、米マサチューセッツ州の漁村が舞台ということで、ASLが使われている。ASLは、単なるアメリカ英語の置き換えではないそうで（むしろ直接翻訳するのが難しいらしい）、撮影にあたっては演劇の経験が豊富で、ろう文化や歴史を理解している人たちが多数参加していたという。マーリーはその最たるものだった。
そもそも演技を始めたきっかけを聞くと、「7歳の夏、キャンプに行って初めて舞台を観ました。そうしたら突然、『あなたもみんなと一緒にステージに上って歌ったら？』と勧められたんです。ステージの下から手話のできる方がサポートしてくださるというので、その人を見ながら私は手話で歌ったの。それがすごく上手だったらしいのよ、自分でいうのもなんだけど（笑）。音楽にちゃんと合っていたし、リズム感が良いって。その体験から人前でパフォーマンスする喜びにハマってしまったの」と話す。
マーリーは地元の聴覚障がい者センター（Center on Deafness）が主催する児童劇団に入り、初舞台では「オズの魔法使い」のドロシーを演じたそう。「12歳の時、俳優のヘンリー・ウィンクラーが私たちの舞台を観に来て、その時に『自分がやりたいと思った事は絶対叶うから』『ハリウッドで活躍する役者にだってなれるよ』とおっしゃった。その言葉を信じて演技を続けた8年半後、私はオスカー像を手に（アカデミー賞授賞式の）ステージに立っていたんです。ヘンリーはいまでも友人であり、私のメンターでもあります」。
ハーパー大学（イリノイ州パラタイン）に進学し、かねてから興味のあった刑事司法制度を学ぶ一方で、アカデミー賞主演女優賞を受賞したマーリー。「映画の仕事を本格的に始めたのが19歳の時で、ノミネーションされた頃はいろんな出来事がいっぺんに起きたって感じでした。でもハリウッドで女優を続けていけるかもしれないと希望が生まれた。自分のキャリアや人生のためにもっと成長しなければ、と変わるきっかけをくれたのがあの受賞でした」と振り返る。
■2つ目のオスカー獲得に期待が高まるもキャリアには影響なし？
受賞から30年以上、女優を続けているマーリーだが、そのキャリアに“オスカー女優”という肩書きは「ほとんど影響しなかった」というのが正直な思いらしい。「TVシリーズではいくつもの素晴らしい作品に携わることができましたが、映画でメインキャストにオファーされることはなかったんです」。
エンターテインメントの世界には「まだまだ多様性（ダイバーシティー）が足りない」と声を上げてきたマーリー。聴覚障がいを持っている人物が登場する作品は圧倒的に少なく、「聞こえない俳優は目立たない端役をあてがわれがち」と指摘し、変革を求め続けている。
そんなハリウッドで注目を集めたのが、映画『コーダ』だった。2015年に日本でも公開されたフランス映画『エール！』のハリウッド版リメイクである本作は、2021年に開催されたサンダンス映画祭で、アカデミー賞へつながると呼び声の高い観客賞をはじめ、史上最多の4冠に輝き、配給権の争奪戦がぼっ発。映画祭史上最高額の約26億円で落札されたことが大きなニュースになった。
主人公のルビーは聴者だが、ほかの家族は耳が聞こえない。ルビー役は、TVシリーズ『ロック&キー』で“NEXTエマ・ワトソン”と注目を浴びたエミリア・ジョーンズ。特訓をうけた歌と手話でどこまでも自然にルビーを演じている。一方、聞こえない家族を演じるのは、母ジャッキー役のマーリーをはじめ、父フランク役のトロイ・コッツァー、兄レオ役のダニエル・デュラント、皆、聞こえない俳優たちだ。マーリーは「ほかの聞こえない俳優たちと一緒に物語を引っ張るキャラクターを演じられることに、本当にワクワクしました」と話す。
豊かな自然に恵まれた海の町で、両親と兄と4人で暮らす高校生のルビーは、家族の中で唯一の聴者。幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブを選択するルビー。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都会の名門音楽大学の受験を強く勧める。だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対。悩んだルビーは夢よりも家族の助けを続けることを選ぶと決めるが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は、意外な決意をする。
本作の魅力について、マーリーは「この映画、ロッシ家（ルビーの家族）には普遍的なものが詰まっています。ご覧になった方で、自分の人生や家族が反映されていると思う方は多いのではないかしら。いろいろなレベルで共感できる物語になっていると思います。普遍的な家族の風景を聴覚障がい者の視点からを描いているところに新しさを感じる人もいるでしょう。フランクとジャッキー、夫婦の仲の良さも見どころです。見ているだけで幸せな気分になれると思います。そして、この作品の最大の良いところは、ユーモアをもってこの物語をつづれたこと。ユーモアはろう文化の中でもすごく重要なことなんです。この映画は、耳の聞こえない人も、聞こえる人も一緒になって観られるのが素晴らしいと思う」と語った。
そして、「ロッシ家（ルビーの家族）を誰もが好きにならずにはいられないと思うの。演じた私たち4人がそうだったから。お芝居ではあったんですが、本当の家族みたいになって、私にとってもかけがえのない素敵な経験になりました。私たち4人のアンサンブルは映画史上最高のものだったんじゃないかと思います」と、とびっきりの笑顔を見せた。
マーリーたちロッシ家を演じた4人は、お互いにテキストメールを送り合う親交がいまだに続いているという。「娘役のエミリアはちゃんと食べているかしら？ 睡眠はとれているかしら？と心配になるし、夫役のトロイはちゃんと自分のケアをしているか？ 息子役のダニエルのことも母親のような気持ちで見守っています」とマーリーは話していた。
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January 25, 2022 at 11:45AM
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聞こえない人も、聞こえる人も一緒に観られる、映画『コーダ あいのうた』｜ORICON NEWS｜Web東奥 - 東奥日報
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