戦死者の4倍以上…PTSDで命を絶つ米兵たち 対テロ戦争20年の代償 - 西日本新聞

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戦死者の4倍以上…PTSDで命を絶つ米兵たち 対テロ戦争20年の代償 - 西日本新聞

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 現役・退役軍人の自殺者数は戦死者の4倍以上―。2001年9月の米中枢同時テロから20年。イラク、アフガニスタンとの対テロ戦争が、米国社会に深刻な影を落としている。帰国後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ元兵士も多い。戦争は彼らにどのような傷を残したのか。

タリバンは同じ人間だった

 ロケット弾が飛んできて「死ぬかもしれない」と思った瞬間、自分の部屋にいた。食料品店で買い物しているとき、同様のフラッシュバックに襲われたこともある。

 米コロラド州に住むザッカリー・ジュリアノさん(29)は13年3月から約9カ月間、情報分析官としてアフガンに従軍。帰国後、重度のPTSDに苦しむ。

 ニューヨーク・マンハッタンに隣接するロングアイランドで生まれ育った。同時テロが起きたときは9歳。その年の暮れに倒壊した世界貿易センタービル跡地を訪れ、「(テロの首謀者)ウサマ・ビン・ラディンを殺してやる」と心に誓った。「当時の私は純粋な愛国少年だった」と振り返る。

 高校卒業後、18歳で入隊。赴任先は東部ジャララバード。既に戦争から10年以上が経過し、憎き敵だったビン・ラディンは殺害され、彼をかくまっていたタリバン政権も崩壊していた。「私たちはここで何をしているのか」。任務に就いて早々、この戦争に明確な目的がないことに気づいた。

 敵と銃撃戦をするような戦闘経験はない。彼が体験したのは、赤外線カメラの映像を通した「ビデオゲームのような戦争だった」。

 灰色の背景に、温度に反応して白と黒の物体が浮かび上がる。物体は人でミサイルが当たると、血や内臓、手足が絵の具のように飛び散った。死体は時間の経過とともに体温を失い、灰色の背景と同化していく。

 当時のオバマ政権は米兵の犠牲者を減らすため、ドローンによる無人機爆撃を強化。空爆は駐留米軍の最大拠点バグラム空軍基地から定期的に実施された。

 タリバンは「人間」ではなく「悪人」だ―。軍隊ではそう教え込まれたが、実際は自分と同じ人間だった。罪のない多くの民間人が巻き添え死する映像も目の当たりにした。着任から3カ月。「自分はタフだ、きっと耐えられるはずだ」と自身に言い聞かせてきたが、何もかもが嫌になった。

酒に溺れる日々…20人近くの同僚が自死

 帰国したのはクリスマスを2週間前に控えた13年12月。すぐに体の異変に気づいた。

 ある日、風呂に入りながらワインを飲み干し、号泣した。きっかけは覚えていない。ただ、抑えきれない感情に襲われた。

 アフガンでは週7日、1日12~18時間働いていたので、当初は「自分はただ燃え尽きてしまったのだろう」と思っていた。酒に溺れる日々を過ごし、アルコール依存症に。数カ月後、初めて医師の診察を受け、PTSDと診断された。

 20人近くの同僚が自ら命を絶った。彼自身も自殺衝動に何度も駆られたが、尊敬していた軍医の言葉に救われた。「治療中に出血多量で亡くなった人もいるし、君のようにドローン攻撃や空爆もたくさん見てきた。助けが必要だと思っていいんだよ。(アフガンでの体験は)私にとってもひどいものだった」

 セラピーを受け続けたことで酒量は減った。ただ今でもアフガンでミサイル攻撃を受けたトラウマで、花火など大きな音に対して異常に反応してしまう。突発的な考えや悪夢に襲われ、睡眠障害にも悩まされる。薬を服用して症状は落ち着いているが、完治するには至っていない。

 戦後76年間、幸いにも一度も戦争をせず、1人の戦死者も出してこなかった日本。だが近年、覇権主義を強める中国の影響で、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、国内ではかつてない危機感が漂う。

 ザッカリーさんは「中国からの侵略に対する懸念から、強力な国防力が必要と考える日本人の気持ちは理解できる」としつつも、戦争の無意味さを訴える。

 「もし私の孫が私と同じような経験をしたら、自分の人生が無駄になってしまう。だから、日本の人たちにはアフガンのような戦争に関わるのは考え直してほしい。ほとんどの人にとって良いことは何もないのだから」

(ワシントン金子渡)

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