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にわかに進む「週休3日制」議論が空虚な“改革ごっこ”に陥りそうだと思うワケ - ITmedia
一時期、雇用労働分野の話題には、必ずといっていいほど「働き方改革」という言葉が使われ、流行語大賞にノミネートもされました。そして現在でも、流行語のように頻繁に用いられる言葉がいくつも思い当たります。
代表的なものとしては、「同一労働同一賃金」「ジョブ型」「男性育休」などがあります。実際に、これらのワードを用いてさまざまな企業が“改革”を進めています。しかし、“改革”という割には「あまり変わった気がしない」とか「謳われている言葉と実態にズレを感じる」などと疑問に思ったことはないでしょうか?
そんな中、読売新聞が4月13日に「『選択的週休3日制』の導入、諮問会議で議論へ…民間議員提案」と題した記事を報じました。
記事では「従業員の学び直しへの支援を強化するため、選択的週休3日制を導入するなど働きながら学べる環境を整備すべきだ」とその趣旨が伝えられています。「週休3日制」については他にもNHKなどさまざまなメディアが報じており、雇用労働分野の新たな流行語になった感があります。
「同一労働同一賃金」「ジョブ型」「男性育休」、そして「週休3日制」―――これらはどれも、新しいワークスタイル時代の到来を期待させるパワーワードです。しかし、その期待感が“ベール”となってしまい、実態が見えづらくなっている懸念があります。
中には実際に、これらのキーワードに基づいた新しい取り組みも見受けられますが、よくよく中身を見てみると、実は旧来システムの名前を付け替えただけのようなものもあります。
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「同一労働同一賃金」については、2020年4月に改正法が施行されました。施行と同時に適用対象となったのは大企業です。そして1年後の21年4月、適用範囲が中小企業にまで広がりました。一見すると、これでいよいよ、日本でも欧州のような「同一労働同一賃金」が実現することになるかのようです。
しかし、そもそもの話、同一労働同一賃金法という法律は存在していません。日本で「同一労働同一賃金」の法律と呼ばれているのは、新たに制定されたパートタイム・有期雇用労働法や一部改正された労働者派遣法のことです。
また、厚生労働省の「同一労働同一賃金特集ページ」には以下のように記されています。
「同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです」
「同一労働同一賃金」という言葉の本来の意味は、読んで字のごとく、性別や雇用形態などを問わず同一の労働であれば同じ労働時間に対して同一の賃金を支払うことを指します。しかし今回の法改正で目指しているのは、「不合理な待遇差の解消」です。これは、「同一労働同一賃金」そのものではなく、その一歩手前といえる概念です。
「不合理な待遇差の解消」とは、待遇差があっても合理性を説明できれば良いということです。それを法制度で定めること自体は現状より一歩前進した取り組みだといえます。しかし、理由が説明できるならば、必ずしも現行制度を変える必要はないということでもあります。
賃金制度の成り立ちが異なるだけに、欧州のような「同一労働同一賃金」に移行するのはとても難易度の高い取り組みです。その点は、過去に「同一労働同一賃金がまだまだ日本で浸透しない、これだけの理由」という記事でも書かせていただいた通りです。「同一労働同一賃金」という言葉が使われているので、日本の賃金制度が劇的に変化するかのような印象を受けますが、実際はそうなっていないケースが大半なのは至極当然です。
また、そもそも欧州のようになることが正しいともいい切れません。法改正前に行われた有識者会議の様子などを見ても、「同一労働同一賃金」をどのように日本に導入していくべきかの議論が不十分なまま、見切り発車してしまった感が拭えません。
「同一労働同一賃金」と同じく、欧米に習おうとする取り組みとして目にすることが増えたのが、「ジョブ型」という言葉です。しかし、今ちまたで使われている「ジョブ型」という言葉の定義はバラバラの状態です。そのため、情報を伝える側も受け取る側も「ジョブ型」という言葉の意味をそれぞれに解釈してしまっている現状があります。
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本来は、日本の雇用システムの特徴を「メンバーシップ型」、欧米の特徴を「ジョブ型」と呼んでいました。その前提からすると、例えば“日本版ジョブ型雇用”のような表現には違和感があります。“日本版洋服”というと何か引っ掛かりを覚えるのと同じで、言葉自体が矛盾をはらんでいるのです。
また、ちまたにあふれている情報を眺めてみると、「ジョブ型」を職務固定という意味で用いたり、専門特化という意味で用いたり、成果連動という意味で用いたりと、さまざまなケースが見られます。そのため、あたかも職務固定したり、専門特化したり、成果連動していれば“欧米型”になるかのような誤解を招いてしまっています。
それ以上に問題なのは、中身はこれまで日本で用いられてきたシステムと実質的に変わらないのに、言葉を「ジョブ型」に置き換えただけのものがたくさんある点です。むしろ、そのケースの方が多いように思います。
それ、本当に「ジョブ型」なの?
例えば職務固定だけであれば、多くの企業で既に導入している職務限定正社員と変わりません。専門特化であれば、エキスパート職のような区分が既にありますし、成果連動させるだけであれば成果主義と変わりません。それらは旧来の「メンバーシップ型」の中で既に運用されてきたものです。「これからわが社はジョブ型に転換する!」と宣言しても、その多くは過去の取り組みの焼き直しである可能性が高いということです。
「メンバーシップ型」とは「就社型」と言い換えても良いと思います。企業が強い人事権を持ち、職務も勤務地も強制的に変更できるからです。つまり、仮に職務限定正社員として働いていても、会社都合で他の職務に変更させることができてしまいます。
しかし、本来の意味での「ジョブ型」であれば、職務と契約しているので、会社が働き手の意思に反して勝手に職務を変更させることはできません。「ジョブ型」は就社ではなく、文字通り「就職型」のシステムです。もし会社が人事権を用いて職務変更させられるのであれば、それはこれまで通り「メンバーシップ型」なのです。
「ジョブ型」という言葉が流行るとともに、職務記述書(job description)という言葉もよく目にするようになりました。しかし、職務記述書を書いたところで、会社側の人事権行使によって一方的に変更できるものであれば、やはり実態は「メンバーシップ型」のままで変わりません。
実態はほとんど変わっていないのに、見た目だけ欧米風にして何かが変わったように見せかけることは無意味です。また、「同一労働同一賃金」と同じく、そもそも「メンバーシップ型」をやめて欧米のような「ジョブ型」になれば良いといえるほど単純なものでもないはずです。
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「男性育休」については、今国会に育児・介護休業法改正案が出されており、現在も審議されています。法案には、出生後8週間以内に4週間まで育児休業を取得できるようにすることや、本人や配偶者が妊娠・出産の申し出をした場合に会社側が制度周知や休業意向の確認を行うことなどが盛り込まれています。
制度を整えることは重要ですが、「男性育休」自体は今でも取得可能です。しかしながら、厚生労働省が発表した令和元年度雇用均等基本調査によると、19年度の育休取得率は女性83.0%に対し、男性は7.48%。同調査上で確認できる最も古い1996年度の男性育休取得率が0.12%であることを考えると右肩上がりにはなっていますが、非常に低い水準の範囲となっています。
今国会で審議されている改正案は重要ですが、仕組みにだけ目を向けても根本にある性別役割分業意識が変わらない限り、残念ながら劇的に変革することはないと思います。
スローガンは「隠れみの」にもなる
「同一労働同一賃金」「ジョブ型」「男性育休」「週休3日制」――どれも新しいワークスタイル時代の到来を予感させる言葉です。しかし、ここまでのように内容を慎重に確認してみると、現時点においては旧来のシステムを打ち壊すほどのインパクトはなく、それらの流行語に仮面を付け替えることでかえって旧来システムを保持できる隠れみのにすらなりえるものです。
例えば「週休3日制」については、以前「『週休3日』『副業容認』は各社各様 “柔軟な働き方”を手放しで喜べないワケ」でも指摘した通り、運用次第でメリットもデメリットも生じます。ここで筆者が重要だと思うのは、「週休3日制」の是非よりも、「そもそも年次有給休暇を十分取得できていないのはなぜか?」という点です。
労働基準法の通りに運用されていれば、労働者は最大で年間20日の有給休暇が取得できます。さらに、日本には祝日が16日あるため合計すると36日。仮に祝日が全て平日と重なるか振替休日になれば、土日以外に休みを取得して週休3日にできる週が年間36回もある計算です。
理論上は、1年52週のほぼ7割を週休3日にすることが可能なのです。もちろん、現実的にこうした対処はしづらいはずですが、付与された有休すら確実に取得できていない状況の中で「週休3日制」の議論だけ進めても、期待通りの効果が得られるかどうか疑問です。休暇を取得しやすい職場づくりとセットで議論しなければ、意味がないのではないでしょうか。
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「同一労働同一賃金」「ジョブ型」「男性育休」「週休3日制」――いずれも大切な取り組みですが、ただ制度を整えるだけでは実態は何も変わらず、“改革ごっこ”に終わってしまいます。「同一労働同一賃金」や「ジョブ型」などは、5年もすればまた別の名称に変わって、新しいシステムであるかのように喧伝(けんでん)されて登場することになりそうです。
人目を引く流行語でカムフラージュされた“改革ごっこ”を繰り返すのではなく、根本的な改革につなげるためには、国家戦略としてグランドデザインを描き、政府主導で新たな労働市場を創り出す覚悟で施策を実行することが必要です。しかし、これまでの経緯を見る限り、それはあまり期待できません。
そこで期待するのは、企業をはじめとする民間の力です。“改革ごっこ”ではなく、ただ欧米に追随するのでもなく、「同一労働同一賃金」「ジョブ型」「男性育休」「週休3日制」といったキーワードを一過性の流行語で終わらせず、その背景にある課題に本気で向き合い、独自の解決策を実施する“真の改革者”が世の中に増えれば機運は変わっていくはずです。
価値観の多様化とともに、働き手の意識改革は既に先に進んでいます。働き手が流行語への期待感というベールに惑わされない目を持てば、必然的に“真の改革者”である職場が選ばれるようになるはずです。そうして選ばれた“真の改革者”が勝者となり、日本社会を引っ張るようになっていけば、大きなうねりが生まれて新たなワークスタイル時代を創り出していくことになる――。そんなストーリーが現実化してほしいと秘かに期待しています。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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