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大黒柱を妻と「シェア」した話。20年以上の会社員生活を離れ、兼業主夫になった理由 - Business Insider Japan
comot.prelol.com筆者の川上敬太郎さんは、妻と大黒柱を交代。毎日の子どもたちへのお弁当作りは日課となった。
筆者提供
ずっと目をそらし続けてきたことに、ついに向き合わなければならなくなった———。
そんな経験がある人は少なくないと思います。48歳にして、人材サービス企業での会社員生活に3月で区切りをつけた私が、“兼業主夫”という選択に行き着くまでに起きた葛藤も、同じような心境から始まりました。
結婚直後に時をさかのぼって、お話したいと思います。
20年前、妻は主婦、自分は会社で働くことを決めた
20年前に結婚してすぐ、妻と話し合ったのは仕事と家事の分担。当時、体に支障をきたすほど猛烈に働いていた妻は仕事と距離を置いて家事に専念することを選び、私が生活費を稼ぐ役割を担うことになりました。
そんな専業主婦家庭に変化が生じたのは、第一子となる長男が生まれた時。妻の役割だった家事に育児が加わりました。当時の私は、主に正社員就職を斡旋する人材紹介事業起ち上げの責任者として毎晩遅くまでハードワークに追われる日々。
家事と育児で妻が徐々に疲れを溜めているのをなんとなく感じてはいたものの、私の方がもっと大変だ、くらいにしか思っていませんでした。
ある日、たまには私も家事をしようとゴミ捨てに取りかかった時のやりとりを今でも鮮明に覚えています。
私「うわっ、生ゴミ汚ねえなあ」
妻「なんでそんなこと言うの? 私はそれを毎日やってるんだよ!!」
私「……そうか、ごめん」
冗談交じりに発した私の一言に、日ごろ温和な妻が声を荒げたことに驚きました。決して家事を軽んじる意図で発した言葉ではなく、妻もそれを頭では理解していたと思います。
それでも、感情を吐き出さずにはいられないほど、疲労とストレスが溜まっていたようでした。
寄せられた声に教えられること
女性から「仕事をしたいが、家事とバランスがとれる求人が見つからない」という声を聞くことはあっても、男性から聞くことはまずなかった。川上さんは日々の業務から実感するようになった。
GettyImages/ RUNSTUDIO
その後、長女を授かり、男女の双子も授かるにつれ、私が家事をする頻度も増えていきました。家事に携わる機会が増えるほど、大変さを少しずつ理解できるようになります。
そんな私にさらなる学びを与えてくれたのは、仕事として携わってきた、主婦に特化した人材サービス『しゅふJOB』の調査機関『しゅふJOB総研』に寄せられた“声”です。
たくさんの声に耳を傾けるうちに、「主婦の中には、“無意識”に自らの職業キャリアを犠牲にしてしまっている人が大勢いる」ことが見えてきました。
なぜ、“無意識”なのか。それは、幼いころから“男は仕事、女は家庭”というイメージが刷り込まれてきたからだと思います。
女性から「仕事をしたいが、家事とバランスがとれる求人が見つからない」という声を聞くことはあっても、男性から聞くことはまずありません。
それが不自然なことだと気づくまで、私自身時間がかかりました。
「できれば、いつかまた仕事したい」
双子の次男次女が幼稚園に通うようになったある日、長く専業主婦を続けてきた妻に、仕事をしたいか尋ねてみました。結婚当初は仕事と距離を置きたいと考えていたはずの妻から、返ってきたのは「できれば、いつかまた仕事したい」という答え。
しかし、やりたいことは定まっていないようでした。
そこで、情報収集のために様々な求人サイトを覗いてみることを勧めたところ、徐々に方向性が見えてきました。
それは、子育てに関わる仕事に就きたいということ。妻は大変な思いをしながら4人の子育てに取り組む過程で、子どもの可愛さと子育てをサポートすることの意義をより強く感じるようになっていったようです。
ならばと、通信講座を使って保育士資格の取得に挑むことになりました。講座費用は決して安くありませんし、勉強時間の確保も容易ではありませんが、チャレンジすること自体に価値がある。そう考えれば、意義あるお金の使い方だと思えました。
家事と育児に忙しい中でPTAの役員も務め、十分な学習時間も取れない中、朝と夜にコツコツと勉強を続けた妻は3年かけて保育士資格を取得。専業主婦期間は15年に及んでいましたが、人手不足な職種だけに勤務先はスムーズに見つかりました。
正社員にチャレンジしてみたい
「正職員にチャレンジしたい」という相談には応援する気持ちと2つの課題が同時にあった。
撮影:今村拓馬
そして、大きな転機となったのが2020年。保育士としてパート勤務を始め、4年が経った妻から相談を受けました。
「正職員にチャレンジしてみたい」
パート勤務で経験を積んだからこそ見つかった、妻の新たな目標を応援しない手はない。そんな思いとは別に、気がかりなことが2つありました。
それは、いつかは考えなければならないと思いつつも、目をそらし続けてきたことです。
1つは、家事の再分担。妻から「仕事したい」という言葉を聞いてから、いつかは考えなければと思っていました。私は相変わらず仕事で忙しく、通勤途中にゴミを出したり、たまに皿洗いする以上の家事をこなす自信はありません。中高生になった子どもたちはある程度のことは自分でできますが、学校生活を優先すべき立場。
妻は「正職員になっても、今まで通り家事もするよ」と言ってくれますが、元来仕事を頑張りすぎてしまうタイプ。「でも、無理が来たらどうする?」と聞く私に、「それはやってみないとわからないけど……」と妻。大きな負荷がかかることは容易に想像できます。
もう一つのずっと、気がかりだったこと。
そして、もう一つずっと気がかりだったこと。それは、東海地方の実家にいる両親の介護です。今は元気で、すぐ介護が必要という状況ではないものの、高齢で持病もあり、今の生活の歯車が少しでもズレたら一気にバランスを崩しかねないという心配は以前からありました。
私は兄弟姉妹のいない一人っ子。実家から400キロ以上も離れたところに住んでいます。いざという時のために準備を進める必要性を感じながら、コロナ禍で会うことすらままならなくなり、両親も私も日増しに不安を募らせている状況でした。
2つの課題をどう解決するか。
妻と両親、それぞれと何度も話し合いましたが全てが丸く収まる結論は見えません。
正職員になるとはいえ、妻の収入だけで家族6人の生活を支えるのはさすがに厳しくないか? 子どもたちはこれから更さらにお金がかかる時期。ならば共働きで今の収入を維持しつつ家事は極力外部委託したとして、介護準備はどう進めるか? あるいは……と考えてみても、どこかに不安が残ります。
3つのステップで決断をする
結論を出すために、仕事で培った「3つのステップ」を活用した。
GettyImages/Prasit photo
不安要素ばかりに目が行き、堂々巡りを繰り返すだけで結論が出せない中、仕事で大切にしてきた考え方をベースに“結論の出し方”を決めようと思い至りました。
結論を出すために整理したのは、3つのステップです。
- 最優先で実現させる“状態”を言語化して確定する
- 常識や先入観にとらわれず、その状態を実現できる“方法”を考える
- その方法に“前向き”に取り組めるかどうかを検証する
1. は、3つの状態を同時に実現することと定めました。3つの状態とは「妻が仕事に思い切ってチャレンジできる状態」「介護準備を進めつつ、必要な際には私自身が動ける状態」「家族の生活が維持できる状態」です。
そして2。3つの状態を同時に実現できる方法を模索する中で行き着いたのが、会社を辞め、“兼業主夫” として個人事業主になる案でした。難易度が高い方法ですが、私が主夫になって家事を引き受け、時間の融通が利きやすい個人事業主として一定の収入を確保できるようになれば、もし実家と行き来することになっても仕事がコントロールしやすく1. が実現できるかもしれません。
3. については、すぐに検証できました。これまでたくさんの主婦層の声に耳を傾けてきたので、主夫業から学べることは多いと確信できます。そして、何より1. が実現できる可能性があるならば、前向きな気持ちでチャレンジすることができます。
正解はまだ分からない、でもチャレンジしなければ後悔する
筆者の川上敬太郎さん。妻が正規職になったのを機に、20年以上におよぶ会社員生活を離れた。理由はいくつかある。
筆者提供
こうしてようやく結論を出すことができ、今に至ります。妻も実家の両親も、当初は少し戸惑いつつも同意してくれました。子どもたちは「ふうん」と素っ気ない反応でしたが、家事で頼みごとをした時など、今まで以上に積極的に動いてくれるようになった気がします。
会社には事情を丁寧に説明して退職を申し出たところ、快く受け入れてくれました。そして、これまで行ってきた仕事の一部を業務委託で続けることを提案してもらい、ありがたくお受けしました。
妻は4月から正職員としての勤務を開始して頑張っています。
しかし、正直な気持ちとしてはこの選択が正解なのかどうかわかりません。収入の確保などを考えると、不安が頭をよぎります。生活費は本当にやりくりできるのか? 子どもたちの学費は? 365日休みなく本当に家事をやり切れるか? などなど。
ただ、間違いなく言えるのは、挑戦しなければきっと後悔するだろうということです。
もし上手くいかなかったとしても、必ず経験を糧として少しでも成長機会にするつもりです。そのためにも、今は“兼業主夫”としての課題に全力を注ぎたいと思っています。
価値観、生い立ち、人生経験は人生の選択にどう影響するのか
家族の食卓を整えることは、川上さんの大事な仕事の一つだ。
筆者提供
今の私の1日は、長女のお弁当作りに始まり、洗濯物を干してから業務を開始。午後は買い物に行き、夕飯を作り、洗い物を片付けた後、翌日のお弁当の準備をするという流れです。
まだ至らないことばかりが目につき、日々自分の家事スキルの低さを痛感しています。
新たな生活が始まりました。
今回の選択に至るまでの背景を改めて振り返ると、そこには夫婦や家族それぞれの意志や思いはもちろん、自分自身の価値観や生い立ち、人生経験など幅広い要素が影響しているように感じます。
それが、人生の選択や最適なワークスタイルのあり方などとどう関係しているのか。こうして書いて発信していく中で、考察してみたいと思っています。
川上敬太郎: ワークスタイル研究家。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。広報・マーケティング・経営企画・人事等の役員・管理職を歴任し、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。調査機関『しゅふJOB総研』では所長として、延べ3万5000人以上の主婦層の声を調査。現在は『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長の他、執筆・講演等を行う。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
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April 29, 2021 at 09:45AM
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