米少子化の現実が迫る議論、出産を奨励すべきか - Wall Street Journal

03.17
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米少子化の現実が迫る議論、出産を奨励すべきか - Wall Street Journal

――筆者のジェラルド・F・サイブはWSJエグゼクティブ・ワシントン・エディター

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 米国の公共政策担当者は目下、居心地の悪い、新たな議論へと向かっている。着実に低下傾向をたどる出生率を踏まえ、政府が果たして出産奨励に特化したインセンティブを提供すべきかどうかという問題だ。

 子育て世帯の暮らしを支援する政策については、すでに策定に向けた機運が超党派で高まっている。子育て世帯への税控除、公的資金による幼児教育、マリッジペナルティー(共稼ぎ夫婦への適用税率が高くなる措置)の廃止――。これらはいずれも、若い親や世帯の暮らしを支援することが目的だ。

 だが、ここにきて議論の行方は、政府がさらに踏み込み、金銭的な刺激や新たなサービスを通じて、そもそも出産数を増やすことの利点やコストへと向かいつつある。物議をかもすこのテーマを巡っては、左派、右派の双方で議論が盛り上がっている。だが、国家全体のコンセンサスには何ら近づいておらず、政府が少子化対策を実施しても、出生率の押し上げにはつながらないとの懐疑論も根強い。

 議論のきっかけとなったのは、5月に公表された連邦政府の公式統計だ。昨年の米出生数は40年ぶりの水準に低下。さらに1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は、政府がデータ収集を開始した1930年代以降で最低水準に落ち込んだ。

 データは、専門家が「置換率」と呼ぶ、人口全体を一定に保つために必要な新生児数の水準を割り込んだ。新型コロナウイルス禍が出生率を下押した可能性は高い。だが、昨年の落ち込みはパンデミック(世界的な大流行)に絡む特殊な現象とは言えない。米国の出生数は2009年からコロナ危機が始まった2020年初頭まで、1年の例外を除いて一貫して落ち込んでいる。

 つまり、これは長期的なトレンドだ。しかも、先進国共通のトレンドで、実のところ、米国以外の国・地域の方が顕著だ。米国の出生率は低下しているとはいえ、日本やイタリア、ドイツなどの水準をなお上回る。

 しかしながらそのいずれも、政府の政策担当者が出生率の押し上げに向けて何らか対策を講じることができるか、もしくは手を打つべきかといった議論に対して、答えを提供していない。

 対策を実施すべきとの議論は、少子化によって社会が直面する問題を根拠としている。アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の人口統計学者、ライマン・ストーン氏は最近の論文で、以下のように問題を列挙した。「人口の伸び鈍化は格差を助長するとともに相続された富の影響力を高め、既存企業の独占を後押しし、起業家精神やイノベーション(技術革新)を後退させる。新規住宅の需要は頭打ちになるだろう。社会保障制度(もしくは民間の生命保険、株式市場でさえ)といった世代間の資金移行を伴うプログラムは、財源確保に行き詰まる可能性がある」

 しかしながら、状況は複雑だ。出生率の低下に伴う利点もある。「扶養する子どもの数が減れば、親や社会は子ども一人に一段と多くの資金を投じることが可能になり、子どもは出世階段を上り、成人した際に生産的な市民になることを支援する」。ブルッキングス研究所の学者で、かつて行政管理予算局(OMB)副局長を務めたイザベル・ソーヒル氏はこう指摘している。

 確かに、移民を増やせば、米国における出生率の落ち込みを相殺して余りあるかもしれない。だが、近年の反移民感情の高まりを踏まえると、移民がどの程度の役割を担うかについては疑問符がつく。

 こうした議論の先には、現実的な問題も待っている。これまで出産奨励策を導入した国・地域では、あまり効果が出ていないのだ。例えば、シンガポールは有給扱いでの産休やベビーボーナス(日本の出産育児一時金に相当)、保育関連の補助金、出産を奨励する優遇税制などを導入した。だが、出生率はなお低水準に張り付いており、米国の水準を大きく下回る。

 フランスの現金給付、イスラエルの子ども手当、オーストラリアのベビーボーナスは、いずれも出生率に何らかの効果はあった。だが、研究からは、出生率上昇の一部は、こうした政策を短期的に最大限活用しようとする一時的な動きによるもので、子どもを生涯何人産むかという長期的な決定に対しては大きな影響を与えていないことが分かっている。

 政策や人口統計学に関するこうした冷静な議論の背後には、極めてセンシティブな問題が控えている。子どもを産むかどうかは非常に個人的な問題であり、国家全般の利益にかなうとして政府が女性に出産を奨励することが果たして適切なのかどうかは不透明だ。

こうした理由から、この問題に関する最も意義ある統計値は、国家全体の状況とは関係がなく、むしろ個人的な状況に関連しているかもしれない。「希望出生率」と呼ばれるもので、女性が産みたいと考える子どもの数を示すとされる。

 調査によると、20世紀半ばを通じて、女性は自身が望む以上に子どもを産んできた。だが、ここ数十年ではこうした流れは反転。女性は実際に産む数よりも、多くの子どもを持ちたいとの考えを示している。

 一般に言われる出産の先送りを含め、これには数多くの要因があるが、子育てや教育関連のコストいった経済的な要因も大きい。公共政策に果たす役割があるとするなら、ここにあるのではないだろうか。つまり、望むだけの子どもを自由に産めると女性や家族が確実に感じられるようにするだけのことだ。

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