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未開の巨大市場「宇宙ごみ除去」で世界をリードする日本人 - ITpro
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アストロスケールホールディングス 創業者兼CEO（最高経営責任者）の岡田光信氏
（写真：加藤康）
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2021年11月に、国際宇宙ステーション（ISS）に滞在する7人の宇宙飛行士が、ISSにドッキングしている宇宙船への緊急避難を余儀なくされた出来事は記憶に新しい。原因は、ロシアが機能を停止した同国のスパイ衛星をミサイルで破壊したことによって、1500個以上の新たな宇宙ごみ（スペースデブリ）が発生し、それがISSに滞在する宇宙飛行士や有人宇宙活動に大きなリスクになる可能性が指摘されたことにある。
これは、40年には年間100兆円の市場に成長する（現在は約40兆円）との予測もある宇宙産業にとって、宇宙ごみがすでに大きなリスク要因になっていることを示す一例にすぎない。実際、欧州宇宙機関（ESA）の21年9月のデータによれば、大きさが10cm以上のスペースデブリ（以下、デブリ）の数は約3万6500個で、1～10cmの大きさであれば約100万個にも及ぶという。
JAXA（宇宙航空研究開発機構）によれば、宇宙空間で最も混雑しているのは多数の人工衛星が周回している地球低軌道、「特に高度約700～1000km付近」だという。宇宙ごみは地球低軌道なら秒速7～8kmという超高速で飛び、「衝突する場合の相対速度は、ピストルの10倍以上の秒速10～15kmに達することもある」（JAXA）。たとえ1cmの宇宙ごみであっても、ISSなど有人の場合はもちろん、人工衛星のように無人であっても衝突すれば大きな被害をもたらす。
米国の通信衛星「イリジウム33号」にロシアの使用済みの軍事用通信衛星「コスモス2251号」が衝突して大破した09年の事故は、人工衛星同士の初の衝突とされているが、現在は当時と比べリスクが大幅に高くなっている。世界各国が衛星コンステレーション（多数の衛星を協調動作させる運用方式、またはそれを構成する衛星群）に着目し、これまでとは比較にならない数の人工衛星が地球低軌道に投入される今後はなおさらだ。人工衛星を安全に運用して持続的にビジネスを拡大するためにも、宇宙ごみの除去は喫緊の課題になっている＊1。
＊1 アストロスケールによれば、デブリが稼働中の衛星に接近するニアミスが急増しているという。1km以内のニアミスは20年までは月に2000回だったが、21年には6000回に拡大しているという。
この未開の領域で、世界をリードするベンチャー企業を率いる日本人がいる。アストロスケールホールディングス（東京・墨田） 創業者兼CEO（最高経営責任者）の岡田光信氏だ（写真）。同社はまだ国際的なルールが存在しない宇宙ごみ対策のコミュニティーでリーダーシップを執ってルールメーキングに取り組むと同時に、サービス化に向けて技術実証を続けている。
21年3月にはデブリを捕獲する技術実証用の小型衛星「ELSA-d」を打ち上げ、同8月には宇宙空間に放出した模擬デブリを同衛星で再度捕獲するミッションを成功させている（図1）。さらに21年5月には衛星通信サービスを手掛ける英OneWeb（ワンウェブ）との提携を発表。英国宇宙庁から250万ポンド（約3億9500万円）の資金調達をして、複数のデブリを1基で除去できる機能を備えた商用衛星「ELSA-M」の開発を進めている。現在は実証実験というフェーズだが、24年ごろのサービス化を目指す。「競合他社と比べて4～5年は進んでいる」と岡田氏は言う。
図1 磁力でデブリを捕獲する衛星
アストロスケールが開発したデブリ除去技術の実証衛星「ELSA-d」。捕獲衛星本体と模擬デブリが一体になっており、宇宙空間で模擬デブリを放出して、捕獲技術の実証を行う。模擬デブリの表面に光学マーカーを備えた磁性体の円板「ドッキングプレート」を搭載し、磁力によって捕獲する（写真：アストロスケール）
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小型衛星分野の第一人者である東京大学教授の中須賀真一氏（大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻）は、岡田氏を高く評価する。「彼はすごい。未開拓の分野だからこそビジネスができると考えていて、国際的なコミュニティーのリーダーになろうとしている。実際、軌道上サービスという分野で世界の顔になりつつある」
中須賀氏がこう話すように、岡田氏は現在、宇宙業界における有識者として、国際宇宙航行連盟（IAF）副会長、宇宙世代諮問委員会（The Space Generation Advisory Council）アドバイザリーボード、英国王立航空協会フェローなど国際組織の職務を兼務している。22年2月に、元ESA長官のヤン・バーナー氏が、同社の社外取締役として参画したのも、岡田氏の存在が認められていることが大きいのだろう。
意外だったのは、同氏の経歴だ。大学で航空宇宙工学を専攻し、JAXAなどでキャリアを積んだ、いわゆる“宇宙村”の人ではない。大学では農学を専攻し、米国の大学院でMBA（経営学修士）を取得。卒業後は大蔵省（現財務省）主計局に勤務し、その後は経営コンサルティング会社でコンサルティングに従事するという異色の経歴を持つ。アストロスケールを創業したのは13年だ。
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