夫が20歳も若い女性とデートした日|ウートピ - ウートピ

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夫が20歳も若い女性とデートした日|ウートピ - ウートピ

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小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回はパートナーの「デート」についてのお話です。旦那さんが若い女の子とデートしたのをきっかけに、恋人を奪われたトラウマが蘇った森さん。女のプライドや嫉妬にまつわる赤裸々な語りに、恋人と異性の関わりでモヤっとしたことがある人なら思わず頷いてしまうはず。

*本記事は『cakes』の連載「アラフィフ作家の迷走性(生)活」にて2018年11月24日に公開されたものに一部小見出しなどを改稿し掲載しています

先日、旦那さんが若い女性(仮にEとしておこう)とデートをした。高級ホテルでアフタヌーンティーを嗜み、ウインドーショッピングをして、クリスマスのイルミネーションを鑑賞、その後は居酒屋でしこたま飲み、旦那さんが帰宅したのは午前様だった。

私より20歳も若い!

すでに寝落ちしていた(寝たふりともいう)私の頬にキスをして旦那さんは、

「遅くなってごめんね」

とささやいた。旦那さんも私も複数恋愛を遂行しているわけではないので、これは読み方によっては由々しき事態である。しかもEは私より20歳も若い! それだけでキィーッと歯噛みして地団駄踏んでしまう。しかしデートの詳細を私が知っているあたり、由々しきというよりはややこしい案件なのである。

Eは旦那さんと同じ職場だ。わりと親しくしているようで、一度私を交えて3人で食事をしたこともある。なかなか美人で賢く、好感度も高い。だが、いかんせん20歳も年下である、感覚がかなり違う。単純に若さがまぶしくて、私が勝手に萎縮してしまうというのもあるのだけど。

世代の違いというか、昭和生まれと平成生まれとの世界観の隔たりを、対男性だと「感覚のおもしろさ」として受け止め、ちぐはぐながらも会話が進むようだ。実際、Eと私よりも、仕事という共通点も手伝ってかEと旦那さんとのほうがやりとりはスムーズだった。

若い女性のまぶしさを、男性は朝露もしくは水面を反射する光のように尊く感じ、片や熟し過ぎて腐りかけた私はそのまぶしさがレフ版の光のように突き刺さる。「ちょっと! まぶしすぎて目が痛いんだけど!」と悔しさのあまりに一言クレームつけたくなってしまうのだ。年齢を重ねたら、人としての豊かな情緒や思いやりといった人間味で勝負すべきだ、というのは体のいい常套句で、やはり若さ(美しさがセットになってたらなおのこと)は羨ましく、目の前でちらついていたら妬ましくなってしまうのだ(こう断言するあたり、私には人間味のかけらもない)。

男は1秒も野放しにできないと痛感した日

旦那さんとEがデートをしたのは、Eが何やら仕事に関連する検定試験に合格したので、そのご褒美をしてあげたい、という旦那さんのやさしさからだった。Eも最近失恋したばかりで、疑似彼を演じてほしかったのかもしれない。

「俺、男として見られてないんだよ」と旦那さんは一笑に付し(女装家だしね)、あらかじめ私に許可を取った。その上、詳細なタイムテーブルまでメールで知らせてきたので、表面上は3人とも穏やかだった。しかし、旦那さんは私のトラウマを知らない。過去、私はたった一日、当時付き合っていた彼を野放しにしただけで、私の知人に彼を奪われたのである。

もう20年以上も昔だ。付き合ったばかりの彼が引越しをして、部屋の整理を手伝うために私は日参していたのだが、どうしてもはずせない用事ができて、さらに彼のほうも切羽詰った仕事があり、手伝いを所望していた。苦肉の策として、私は信頼できる知人女性を紹介し、一日だけ手伝いを頼んだ。するとその翌日に知人女性から私に電話があり、「私、彼と一緒に暮らすから」と一言。はぁ? 彼が私の彼だということを知人に伝えていなかったのは私の落ち度だし、そのくらい察してくれるよね、との思い込みも私の驕りに過ぎない。のちに知人から謝罪はあったにしても、泥沼の三角関係に突入したのだから後の祭りだ。

モテない男とは付き合いたくないけど、自分の男がモテるのは嫌

この経験は、私の胸に暗く深い影を落とした。男女間は1分、いや1秒でもあれば恋愛関係に発展する可能性があるのだ。年齢も国籍も職業も、性別すら飛び越えてしまうもの、それが恋愛。不条理が許されてしまうのも恋愛で、理不尽に心が傷つけられるのもまた恋愛だ。私は、Eと旦那さんがデートするのが、嫌というよりは不安だったのだ。だって私には、若さに太刀打ちできる豊かな情緒も思いやりもない。たとえそれらがあったとしても、万が一、私が人格者だったとしても、若さと美しさに寸分も威圧されない女性がこの世にいるだろうか。

さて、ここで皆様に問いたいのだが、自分の夫もしくは彼が異性と交遊する際の許容範囲はどの程度だろう。異性とふたりきりで会うのはNG、という人から、LINEもメールも絶対にアウト! な人がいたり、別にたまには他の人とセックスしてもいいよ、なんて寛大な人もいるかもしれない。

私の場合は、事前か事後に報告してくれればふたりきりで会って飲んだり食事しでもOK派だ。仕事上の付き合いでふたりきりで会うなんて日常的にありそうだし、あまり制限するのも大人気ない。と、広い心でかまえたふりして、正直に申し上げると心中は大海原みたいにゆったりしているわけではない。

私は旦那さんのことは100%信頼しているけれど、「男性」は100%信頼していないのである。旦那さんの中にある男性は、旦那さん自身にも制御不能だと思うから。これ、矛盾しているようでけっこうまっとうな意見じゃないでしょうか。そもそも100%信頼できる男性なんて、モテない証みたいだ。これも矛盾しているようなのだが、女性は自分の彼が他の女性にモテるのは嫌なくせに、自分がモテない男性と付き合っているというのは我慢ならない。

ほだされるのは男のやさしさ

たいてい、ずるずると浮気や不倫に引きずり込まれるのは男性だ。男性はやさしいから、女性が罠を仕かけていると承知していながら、あえて引っかかる。女性が酔ったふりをするのも、帰りのタクシーの中でしなだれかかってくるのも、わざとだと本能でキャッチしている。「このままずるずるいくとヤバいな」と牽制しつつ、妻または彼女からのメール「そろそろ飲み会終わった? お茶漬け作っておこうか?」を横目で見つつも、下半身すれすれに押しつけられた女性の胸に、もう降参してしまっている。つい欲情してしまうのは勿論だが、男性は「こうまでして俺とやりたいのか。健気だな」と揺れ動いてしまうのではないか。意思が弱いというよりは、やさしいのだ。なし崩し的に、女性の情熱にほだされてしまう。

そんな男性の、弱さと紙一重のやさしさを女性は利用する。当然、その男性が好きだから、付き合いたいから、やりたいから、という確固たる目的の上で、わざとらしい色気が功を奏すのだ。

女性の必死な作為や策略が、私は嫌いではない。テレビドラマや映画でも主人公よりは悪役やライバル役に惹かれるし、自分が書く小説でも、実は主人公よりは悪役やライバル役に心血をそそいでいる。なぜかというと、ほしいものが明確で、そのためなら手段を選ばないからだ。最後の最後で主人公が勝つように物語はできているけれど、一時は悪役やライバル役が主人公を脅かす。それがあくどければあくどいほど、私はそそられる。

旦那のデートについて行くのは女のプライドが許さない

で、Eと旦那さんのデートだが、別にEは悪役でもライバル役でもない。若くて美人で賢くて好感度の高い女性だ。同時に、私がたちうちできる相手でもない。過去のトラウマにより、その日一日、私は世にも鬱陶しい悲劇のヒロインになっていた。「ああ、きっと、20年前のように旦那さんをとられてしまう。あの頃は私も若かったけれど、今は若さがない。情緒も思いやりもない、人格者でもない(しつこい)。絶対に終わりだ」。

すいません、バカみたいなのだが本当に一日中滅入っていたのだ。人間が誰しも1分1秒で恋愛関係に突入するわけじゃないだろ、と頭では勿論理解しているのに、だ。だったら、デートを許可しないか、一緒にくっついて行けばよかったのだ。事実、旦那さんには「一緒に来る?」と誘われたのだ。が、「うんうん!」とは言えませんよね、女性の方々、年季の入った妻として、または彼女として、尻尾ふって行けますか? この女性のやっかいなプライド、男性の方々には理解できないだろう。

それに、前述したように私は悪役やライバル役が好きなのだ。いやいや、だからEは別に悪役でもライバル役でもないのだけど。旦那さんは旦那さんで私に気を使ってか、いちいち「今、ここにいます」といったツーショット写メを送ってくるし、これがまた仲が良さそうなのだ。すっかり小姑気分になった私は、「あら、可愛いわね、素敵ね。楽しんでね」なんて、ひとかけらも思っていないことを笑顔の絵文字付きで返信したりして。

そして旦那さんが帰宅したのが午前様だ。私は精一杯の虚勢で寝たふりしていたけれど。

「おかえり。一発やった?」

くらいの意地悪は、してもよかったかもしれない。まさか、そんな一撃をくらわしたところで自分が虚しくなるだけだ。それがわかるくらいの理性はある。

女性の方々、男性の方々も。夫(妻)または彼(彼女)が他の女性(男性)とデートした時の心境はいかがでしょうか。モヤっとした感情が1ミリも湧かない方がいるとしたら、それは悟りをひらいた人か、もしかしたら人間ではなく神ではないかと思うのだ。

森美樹 1995年、講談社から少女小説家としてデビュー。恋愛小説を7冊刊行したのち、2013年、新潮社R-18文学賞読者賞受賞。『主婦病』『私の裸』『母親病』以上新潮社刊。『神様たち』光文社刊。アンソロジー『黒い結婚 白い結婚』講談社刊。女性専用カウンセリングサイト『語りませんか?』にて、カウンセリング活動も行う。

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