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アート熊手がかき寄せる新たな幸せのかたち。清水屋インタビュー - Qetic
comot.prelol.com毎年11月の酉の日、関東各地の神社では「酉の市」が賑々しく行われる。各神社の境内では商売繁盛や家内安全を願う縁起熊手を販売する露店が立ち並び、熊手を買い求める客でごった返す。
そんな熊手の風習にとある老舗熊手商が新風を吹き込もうとしている。大正4年創業の清水屋が近年展開している「アート熊手」だ。仕掛け人は清水屋の4代目、清水雄太と泰子夫妻。清水雄太は良質なダンスミュージックを提供することで国内外からの支持を得ている音楽フェスティヴァル<RAINBOW DISCO CLUB>(以下RDC)のオーガナイズ・メンバーでもあり、Yoshinori HayashiやFORCE OF NATUREなどのマネージメントも手掛けるエージェンシー「Eild」を経営している。熊手商の世界では異色の存在といえるだろう。
昨年は田名網敬一や天野タケルなどさまざまなアーティストとのコラボレーションを果たしたアート熊手だが、今年は天野タケルに加え、タカハシマホ、komiといった新たなアーティストを迎え、制作・販売される。その背景には、人々の幸福を願う熊手の本質を見つめながら、多様化する現代のライフスタイルに対応すべく熊手の文化そのものをアップデートしようという清水屋の思いがあった。清水雄太・泰子夫妻に話を聞いた。
INTERVIEW:清水屋
©︎TORI no ICHI タカハシマホ×清水屋
アート熊手のはじまり
諸説あるが、熊手は秋の収穫物や農具が並ぶ農業市が原点とされている。落ち葉をかき集める熊手が「福をかき集める」ことから一種の縁起物とされるようになり、一年に一度熊手を購入し、家や店に飾る風習が定着した。そこには商売繁盛や家内安全、学業成就などを願う、その時代に生きる人々のライフスタイルが反映されている。
「当初は農村の収穫祭だったものが江戸時代の大衆文化のなかで現在のような形になったと考えています」──そう話すのは清水屋の4代目、清水雄太だ。1983年生まれの清水は、子どものころ、熊手商という家業についてどう感じていたのだろうか。
清水雄太「以前は大晦日にも熊手市が行われていて、家族でずっぱりで神社で年越ししていました。今と比べるとまだまだ熊手市の人出も多くて、賑やかな年越しでしたね。うちの父親は(家業を)無理やり継がせようという気はなかったようで、僕に仕事を教え込まそうともしなかったし、家に置いておけないから連れてこられたという感じでした」
そんな清水も思春期を迎えるころには音楽やアートへと関心が移り、家業に触れる機会も減ってしまう。熊手の文化を意識するようになったのは大人になってからのことで、アートやストリートカルチャーの文脈から熊手の魅力を再発見することになった。
清水雄太「それまでは熊手の意味やデザイン性についてあまり考えていませんでした。でもSNSに熊手の写真を上げると、外国の友達やアーティストから『あれはなに?』と聞かれるんですよ。そういった質問に答えるためいろいろ調べるなかで、熊手の歴史や背景を知っていったんです」
公私にわたる清水のパートナーである清水泰子もまた、夫の家業を手伝うなかで熊手への関心を高めていった。
清水泰子「私はもともと物を作るのが好きだったので、雄太のお父さんのお手伝いをするなかで『こういう熊手を作ってみたいな』『こういう熊手があったらいいのに』と妄想が膨らんできたんです」
そうしたなかで清水夫妻はアート性の高いオールブラックやオールホワイトの熊手を考案。「試行錯誤するなかでそういった熊手を酉の市で売ったりSNSに乗せたりしてたんですけど、結構反応が良かった」(清水雄太)ということから、さらなる展開を模索するように。それがやがてアート熊手という前例のないプロジェクトへと結実していくことになるのだ。
2020年に発売した限定90個の小型熊手2種。わずか10分でソールドアウトし話題に。
アート熊手がつなぐ伝承のバトン
アート熊手の背景にあるのは、熊手という伝統文化に対する清水たちの危機感だ。アート熊手のコンセプトを解説するプレスリリースのなかで清水はこう書いている。「人々のライフスタイルが多様化した現代において、熊手の飾りが江戸時代からほとんど変化がないのは、その本質に沿ってはいないのではないか?」。清水はその言葉をこう解説する。
清水雄太「よくこんな質問をされます。『熊手って商売をやってないと買っちゃいけないんでしょ?』とか『毎年大きくしないといけないんでしょ?』とか『絶対値切らないといけないんでしょ?』とか。確かにこれらは当時「粋」とされていた行為ですが、絶対ではなく本質から逸れたイメージが広がっているんです。熊手はもともと豊作を祝うものだったわけですけど、それから商売繁盛や長寿を願うものとなっていった。でも、今は幸せの形も多様化していますよね。それなのに熊手の形は江戸時代のままで、現代人からするとピンとこないのも当然だと思うんですよ」
これはあらゆる伝統行事や伝統文化が抱える課題でもあるだろう。たとえば、かつては農村のなかで五穀豊穣を願うという目的のもと行われていた祭りが、周囲が宅地化されたことで従来の目的を見失うというケースは日本各地で見られるものである。祭りの目的が現代の暮らしとマッチしていないわけで、そうなると担い手たちのモチベーションもなかなか維持しにくい。そうやって多くの祭りや伝統行事の伝承が途絶えているのが現状だ。
熊手商の世界もまた、伝承に対する危機感を抱えている。
清水雄太「僕らが出店している酉の市は東京も埼玉も確実に人が減ってきていますね。当然売れる本数も少なくなっているし、熊手商以外の露店の数も減りつつある。僕は今、39歳なんですけど、かなり若いほうなんですよ。跡継ぎがいないところもすごく多いんじゃないかな。熊手商は「キワモノ」と言われる、いわゆる季節商売なので、続けていくのはなかなか厳しいというのが現状です」
現代アーティストの視点を借りながら、現在のライフスタイルにマッチした熊手を作ることはできないだろうか?――清水屋のそうした試みは、クリエイティヴなものであると同時に、伝承のバトンを次世代へと繋ぐためのチャレンジでもあるのだ。
大正4年創業の清水屋の熊手。今年も田無神社にて、色とりどりの熊手が販売される。
<RDC>で気づいたコスパを考えない暮らしの大切さ
清水雄太はプレスリリースのなかでこのようにも書いている。「合理的だったり、コスパという言葉が持て囃される時代において、熊手のような全く別のベクトルを持つものに惹かれる人は多い」――熊手に限らず、伝統文化や伝統芸能、アート、音楽は合理性やコスパを重要視する価値観とは相容れないものであって、本来真逆のベクトルにあるものである。清水はこう続ける。
清水雄太「不要不急っていう言葉がありますけど、音楽にしろイヴェントにしろ、僕は普段から不要不急の仕事しかしてないんですよ。熊手だって制作には手間暇かかってるけど、基本的に一年で交換しちゃうものだし、正直ないと困るものじゃないですよね。部屋のなかでも場所をとるし、コスパとか合理性を考えたらまずいらないものだとも思います(笑)。でも、そういうものこそが人の気持ちを支えてくれると思うんですね。それに気づいたとき、自分のなかですごく腑に落ちる感覚がありました」
そのスタンスは清水雄太がオーガナイズに関わる<RDC>にも共通している。
清水雄太「<RDC>は基本的に3日間やってるんですけど、3日間伊豆の野外で過ごすこと自体ハードルが高いし、来る側からしたら大変なことも多いと思うんですよ。でも、僕らは3日間でひとつの作品だと考えていて、そのなかで音楽が中心ですが、同じくらいお客さん1人1人がどういう経験をするかということも大事だと思っています。だから、便利にしようと思えばできる部分もあるんですけど、あえてハードルを下げない。トイレとかご飯に関してはホスピタリティをしっかり持とうと思ってるんですけど、すべてにおいて下げすぎないということは意識しています」
毎度東伊豆で開催される<RDC>では誰もが普段の生活から強制的に切り離されることになる。だからこそ、特別な開放感を得ることができるのだろう。清水もまた「<RDC>のお客さんは東京か海外の人が多いんですけど、1日目ってみんな東京の顔をしていて。でも、3日目になると顔が違うんです」と話す。
合理性とコスパを重視した生活空間はそれはそれで居心地のいいものだ。だが、無駄なものを廃した空間には特有の息苦しさがある。熊手は決して生活に欠かせないものというわけではないが、「福をかき集める」というある種のとんちが効いた縁起物があるだけで、生活空間は色鮮やかになる。熊手の素朴な信仰心は、日々の支えにもなることだろう。そこには現代における熊手の存在意義・意味があるようにも思えるのだ。
天野タケル、タカハシマホ、komi…アップデートするアート熊手
2020年、清水屋は画家・天野タケルと3種のアート熊手を制作する。制作された熊手のうち、限定90個が作られた小型熊手2種はわずか10分でソールドアウト。大型熊手もアートコレクターが購入し、各メディアで話題を集めた。
清水雄太「自分たちで試行錯誤してる時期が何年かあって、もうちょっと大きくしたいからアーティストとやってみようと考えたときにまず頭に浮かんだのがタケルくんでした。タケルくんは古い友人なんですよ。昔から僕のイヴェントで絵を描いてくれていたし、うちの熊手を買ってくれていました」
天野がデザインした熊手は女性のキャラクターなどが乗ったポップなものだが、「熊手として変えちゃいけない部分」もはっきりと意識されている。そこには熊手という伝統文化を継承するものとしての清水屋の矜持も表れている。
清水泰子「熊手は伝統文化でもあるので、最低限守らないといけないものがあると思っています。熊手には幸せをかき集めるという意味があるし、熊手についている桝には『ますます繁盛』という意味があるんですね。そういった部分もゼロにしてしまうのは抵抗感があります」
清水雄太「熊手に乗せるものには厳しい決まりはないんですよ。でも、なぜこれが乗っているのか説明できないといけない。例えばオールブラックの熊手にしても、黒だから不吉な色なのかというとわけではなくて、僕らとしては『黒字の黒』なんです。アート熊手なんて作っていると、当然『これってどうなの?』という人も出てくると思います。でも、作ったものの意味を自分たちが理解していて、なおかつ『幸せを願うものである』という熊手としての本質を見失わない。そこが一番大切な部分だと思っています」
2021年には前年度の企画を拡大する形でアート熊手企画展が開催。田名網敬一、天野タケル、愛☆まどんな、KINJOといったアーティストが参加し、前年以上の話題も集めた。また、同年にはウォルトディズニー社からの依頼で「スター・ウォーズ」のドラマシリーズ『ボバ・フェット』の成功を祈願したオリジナル熊手を制作。2022年1月の数日間、原宿の東急プラザ入口に展示され、こちらも大きな注目を集めた。
第3弾となる天野タケルとのアート熊手。今年はネオンも制作された。
2021年はウォルト・ディズニー社からの依頼で、スター・ウォーズのスピンオフドラマシリーズ「ボバ・フェット」の熊手を制作。
そして、本年度。レギュラーメンバーとなった天野タケルに加え、今回は4組のアーティストが参加することになった。
ひとりめは成田山にルーツを持ち、スケートボードのデッキなどをキャンバスに腕を振るうSkateboard Shaper / 画家のkomi。彼とのコラボレーションでは清水屋にとっても初のアイデアが試されている。
清水雄太「熊手の世界には熊手問屋さんがいます。熊手のパーツをたくさんストックしていて、各熊手屋さんは熊手問屋さんから好きな絵柄を仕入れ、自分たちのスタイルで組んでいくんですね。そこは熊手商の腕の見せ所なんですけど、パーツに関してはどこも一緒だったりする。今回はパーツ自体もオリジナルにしちゃおうと思って、komiくんに何枚か描いてもらいました。アーティストとの限定コラボだと、どうしても制作コストも膨らんでしまうので、販売価格は通常よりどうしても高くなってしまうんです。komiくんは、昨年一緒に熊手を作ったアーティストのKinjo君が紹介してくれたんですけど、作品を見たら熊手にバッチリだし、ストリートシーンで活動しながら、なおかつ実家は成田山でお祭りにも積極的に参加している。アート熊手のデザイン性の部分を昔ながらの熊手にも取り入れていきながら、手にとってもらいたい、という考えを一緒にやってくれる人としては、物凄い良縁だと思い、お声がけさせてもらいました。彼が描いてくれたパーツは清水屋の熊手に使用されて、酉の市で販売されます。来年もまた少し彼の絵柄を増やしたいし、同様のことを別のアーティストともやりたいです。
タカハシマホさんは新宿・花園神社前のギャラリー、New C’s Studioさんが引き合わせてくれました。New C’s Studioさんは熊手に関するアート作品をやりたいと常々思っていたところ、うちの活動を見てくださったようで、『ぜひ一緒にやりたいです』とお話をいただきました。マホさんに関しては、僕らが問屋さんにお連れしたり、サンプルを貸し出ししたり、監修のような形で関わっています。
あとの2組はNFT熊手なんです。データだからこそできる熊手の表現があると思っていて、コストや設計の問題で現状は難しいものもNFTだとできる。熊手を海外に伝えるための足がかりになればと考えていて、僕は去年から興味を持っていました。今回はコレクティブスタジオXYZAの企画で、新星ギャルバースさんと、sneakerwolfさんの2組が参加してくれています。こちらは12月の中旬までにはリリースできると思います」
居住空間の狭い現代の都市では、熊手をセッティングする場所も取りにくい。NFTはそうした課題を解消するだけでなく、海外に向けて熊手の精神性を広くアピールすることもできる。そうした意味でも今回のプロジェクトは熊手の「これから」をはっきりと意識したものでもあるのだ。
タカハシマホのアート熊手はNew C’s Studio.で展示販売中。
©︎TORI no ICHI タカハシマホ×清水屋
清水屋が立ち返る熊手の本質とは?
アート熊手の世界は年を追うごとに拡張しつつあるわけだが、清水夫妻はアート熊手という手法を清水屋オリジナルのものにしておきたいのだろうか。あるいは彼らの手を離れてミーム的に広がることを望んでいるのだろうか。清水の回答は淀みないものだった。
清水雄太「僕の考えは完全に後者ですね。うちでアート熊手を囲い込むのは自分たちの最初の動機からかけ離れる行為だと思うんですよ。だからどんどん広がってほしいです。ただ、文化や意味、基本的な作り方みたいなものは理解した上でやってほしいなとは思います」
その言葉には清水が今回の取材中何度か口にしていた「熊手の本質」が踏まえられている。暮らしのなかでの多種多様な願いを受け止め、生活空間を豊かにするもの。それは「豊作を祝うもの」という縁起熊手の原点から今も変わらない。
なお、清水夫妻はアート熊手という新しい領域に挑みながらも、毎年の酉の市にも清水屋の一員として立ち続けている。いくらNFTによる熊手にチャレンジしつつも、彼らの原点は常に酉の市という現場にあるのだ。
清水雄太「熊手の魅力はやっぱり現場にあると思うんですよ。僕らもお客さんとは1年に1回、酉の市で会うだけの関係性なんですが、それが2、30年単位で積み重なってくると、お客さんの息子たちも一緒に来るようになる。なかには泰子からしか買わないというお客さんもいます。『1年前買ったときに彼女と話したことが忘れられなくて、今年も来ました』という。そこにはコスパや合理性とは無縁の、酉の市ならではのコミュニケーションがあると思うんです。パーティーやアーティストエージェンシーもそうですけど、誰かの気持ちに残る時間に関わりたいんだと思います、きっと」
©︎TORI no ICHI タカハシマホ×清水屋
Interview, Text:大石始
Photo:YUTARO TAGAWA
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November 14, 2022 at 10:00AM
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