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1本1万円以上の傘が、なぜ3年目に10倍も売れたのか - ITmedia
comot.prelol.com国内のアパレル市場が大苦戦している。矢野経済研究所のデータを見ると、2020年の市場規模は7兆5158億円で、前期比81.9%と大幅に減少しているのだ。新型コロナの感染拡大によって、百貨店のシャッターはガラガラ閉店となってしまい、サラリーマンはテレワークによってスーツを脱いでしまい、外出自粛ムードでオシャレをすることに関心が薄れてしまい。
ちなみに、アパレル市場のピークはバブル期に迎えていて、そのときの市場規模は約15兆円。ということで、ピーク時に比べ、いまはほぼ半分になってしまったのである。
長い年月をかけて市場が縮小した背景には、人口が減ったり、価格が安くても質のいいモノが出回るようになったり、数十万円もするミンクのコートを買う人がほぼ消滅したり。こうした動きがあったわけだが、そんな中でもユニクロ、ワークマン、ザ・ノース・フェイスといったブランドは好調のようだが、筆者が気になっているブランドがある。「D-VEC(ディーベック)」だ。
「はあ? ディーベック? そんなブランド聞いたことないなあ。流行のブランドを知っている自慢かよ」と思われたかもしれないが、そーいうつもりは1ミリもない。グローブライド(東京都東久留米市)という会社が17年に立ち上げたブランドで、1本1万円以上もする傘が倍々ゲームのように売れているのだ。
グローブライドという会社のことも知らないし、高価な傘が売れていることも知らない。といった人もいると思うので、まず会社の紹介をしよう。
同社は世界トップクラスの釣り具メーカーで、社名よりも「DAIWA(ダイワ)」のほうがピンとくる人が多いのかもしれない。09年に「ダイワ精工」から社名変更をしていて、昨今のアウトドアブームや釣りファンが増えたことなどもあって、会社の業績は好調である。21年3月期の売上高は初めて1000億円を突破して、純利益は前期比の4.3倍に。直近(11月5日)の業績予想でも、上方修正の数字を発表している。釣られる魚側からすると、“受難の時代”がしばらく続きそうである。
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「一本足打法」に危機感
や、ちょっと、話がそれてしまった感もあるが、世界的に有名な釣り具メーカーがなぜアパレルに進出したのだろうか。竿、リール、糸など、さまざまな商品が売れに売れているので、いわば“左うちわ”の状況である。釣り人用のベストやレインコート、帽子などは扱っているものの、アパレルが本業ではない。畑違いの世界に飛び込むには「リスクが高すぎるのではないか」と思えたが、会社には会社なりの悩みがあったようで。
それは「一本足打法」であること。
事業担当者の小林謙一さんに聞いたところ、「この先も釣り業界が成長を続けていくかどうかは分かりません。社内に蓄積した技術を使って何かできないか。このようなことを考えたときに、アパレルの世界に進出してみてはどうかと考え、事業展開することを決めました」とのこと。
ふむふむ。確かに「一本足打法」は、不安といえば不安である。例えば、カメラのフイルム業界の歴史が分かりやすい。米国のコダックはデジタル化の対応が遅れてしまって、12年に倒産。一方、ライバルの富士フイルムはヘルスケアなどの事業に進出したことで、いまも成長を続けているのだ(22年3月期は過去最高の営業利益を見込んでいる)。
コダックのようになってはいけないと感じたグローブライドは、第二の柱としてアパレルの世界に目をつけたというわけだ。とはいえ、どこの世界も甘くないように、この業界も猛者たちがそろっている。歴史があるブランドもたくさんあるし、差別化戦略が上手なところもあるし、低価格で質のいいアイテムをたくさん出す会社もあるし、異業種からの参入でうまくいっているところもある。
釣り具メーカーからの参入になると、消費者は「釣り人が使っているレインコートをちょっとオシャレにしただけでしょ。で、機能性をうまく宣伝して、ワタシたちを釣ろうとしているのでは?」などと想像しているのかもしれない。異業種参入の成功事例を参考にしたのかどうか聞いたところ、「他社の後追いのようなことはしたくなかったですね。これまでになかった商品を開発することで、お客さまに『あ、これいいかも』『こーいうモノが欲しかったんだよね』と思われるようなブランドができないか。そんなことを考えていました」(小林さん)
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開発に3年
アパレルの世界に飛び込む――。と聞けば、競争の激しいレッドオーシャンの世界で戦わなければいけないという印象を受けるが、同社はレッドの中でも「青い海はないか」「勝負しなくても戦える領域があるのではないか」などと考え、「1万円以上の傘」を開発することにしたのだ。
傘の名前は「カーボンテクノロジーポータブルアンブレラ」。その名の通り、傘の中棒にカーボンを採用している。釣り好きの人であれば想像できると思うが、釣り竿は長時間持ち続けなければいけないので、メーカー側は「少しでも軽く」「前のモノよりも1グラムでも」といった感じで、軽量化にチカラを入れている。
グローブライドもカーボン製の釣り竿を開発してきたので、「中棒にカーボンを使うことはそれほど難しくないかなと考えていましたが、想像以上に大変でした」(小林さん)と振り返る。
釣り竿を想像していただければ分かると思うが、カーボンは曲げに強いものの、ちょっとした傷に弱い。傘を設計するにあたって釣り竿のように、何本も引き出せるような構造を考えていたので、基本的に金属の使用は頭の中になかった。部品を使わなくても引き出せて、収納もできるようなモノを設計していた。しかし、である。どうしても穴を開けなければいけないところが出てきて、そうすると耐久性という課題が浮き彫りになったのだ。
ちょっと使っただけで壊れてしまってはいけないので、「ああでもない、こうでもない」と議論を重ねていく。そうすると、また違うところに問題が出てきて、何度も試作品をつくることに。カーボンを使うことに対して、豊富な知見があるのにもかかわらず、「開発に3年もかかりまして。特許も6つ取得しました」(小林さん)という。
できあがったのは、長さ50センチで重さは76グラム。傘などを製造しているムーンバットが行った調査によると、折り畳み傘を購入する際に重視していることとして、「重量が軽い」(81.8%)ことを挙げる人は多く、そうしたニーズにも合致したアイテムに仕上げた。
また、釣り具メーカーということもあって安全性を重視し、骨は6本タイプを採用した。同社によると、当時、6本骨では82グラムが最軽量だったので、いきなりトップに立つことができたのだ(5本骨ではもっと軽いモノがある)。
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ニーズとシーズを組み合わせる
開発に時間をかけて、商品はようやく完成した。価格が価格なので、社内からは「絶対に売れないよ」「たくさん返品されるのでは」といった声があったが、2カ月ほどで完売。2年目は前年の2倍もの数をつくったが、それも完売。じゃあ、3年目はまた2倍もつくったのかなと思っていたところ、なんと10倍もつくったのだ。「さすがに完売は難しいのではないか。売れ残ることを覚悟しましたが、ほぼ完売しました」(小林さん)
飛ぶように売れているとなると、他社から同じような商品が出てきてもおかしくないが、いまのところ見当たらない。なぜか。先ほど紹介したように、カーボンを加工することが難しいからだ。本業でやっている会社が開発に3年も要したということは、知見がない会社が手を出しても、すぐに完成させることは至難の業といったところだろう。
グローブライドの技術は、カーボンの加工だけではない。釣り糸の素材を加工して服をつくったところ、耐久性と軽量化を実現したモノを完成させたり、ニットに使う糸に撥水加工を施すことで水をはじく商品をつくったり。となると、気になるのは、次にどんな商品が生まれてくるかである。
詳細は明かしてくれなかったが、「釣りに関係する技術はたくさんあるので、それを商品化に落とし込んでいかなければいけません。傘を発売したときに、お客さまから『こういうモノが欲しかったんです』と言われたんですよね。このようなことを感じられる商品を世に出していきたいですね」(小林さん)と語る。
消費者のニーズ(需要)と企業のシーズ(技術力)で考えると、グローブライドの場合、シーズはたくさんある。しかし、アパレルの経験がまだ浅いので、どんなニーズがあるのかを研究し続けなければいけない。そして「これだ!」と仮説を立てることができ、自社が保有する技術とうまくマッチングさせることができれば……。アパレル界でも、ひょっとしたらひょっとして“大漁”ののぼり旗を立てることができるのかもしれない。
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December 04, 2021 at 06:08AM
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