ウクライナ難民の教育 「祖国に戻る前提」か「受け入れ国流」か ドイツで分かれる議論:朝日新聞GLOBE+ - GLOBE+

08.15
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ウクライナ難民の教育 「祖国に戻る前提」か「受け入れ国流」か ドイツで分かれる議論:朝日新聞GLOBE+ - GLOBE+

ロシアがウクライナに侵攻してから約4カ月。

当初、人々の関心はポーランドやドイツなどの近隣諸国に逃がれたウクライナ人の住居の確保などに寄せられていました。

長引く戦火でウクライナに戻るという選択肢がどんどん遠ざかっている今、ドイツでは「ドイツに住むウクライナの子供たちの学校教育」にスポットが当たっています。

ドイツでは外国籍の子供であっても就学の義務があります。州によって規定は違うものの、例えば南東部バイエルン州では「州内に90日以上滞在する児童は就学の義務がある」としています。

戦争が始まって間もない今年3月ごろは、多くのウクライナ人から「子供たちがウクライナに帰っても困らないような教育を」という声がありました。

ベルリンに次ぐ第2の都市ハンブルクのウクライナ総領事Iryna Tybinka氏も、ドイツの文化相にこう要望していました

「子供たちは、あくまでも一時的にドイツに滞在している。子供たちのウクライナ人としてのアイデンティティーを保てるような教育をお願いしたい。いつウクライナに帰っても困らないように、ウクライナのカリキュラムに沿った授業をしてほしい」と。

ところが、ドイツの連邦教育大臣のBettina Stark-Watzinger氏は当初から「戦争がどれぐらい続くか分からないのだから、子供たちが長くドイツにいることも想定しなければならない。そう考えると、ウクライナの子供たちがドイツの学校のシステムに統合されることが極めて大事である」と話しています。

ドイツのKultusministerkonferenz(教育、研究、文化活動を担当する大臣の閣僚らによる「連邦教育省大臣会議」。略してKMK)のHans Beckmann氏も、「もちろん我々も、この悲惨な戦争が早く終わることを望んでいます」と前置きしつつ、「この戦争がどれぐらい続くかは誰にも分かりません。だから、ドイツの学校に入るウクライナ人の子供にとって統合は大切です。その上で、ウクライナの子供たちがウクライナ人としてのアイデンティティーを保ちウクライナ語の授業を受ける方法を探りたい」と語っています

つまり、ウクライナ語を学び続け、ウクライナのカリキュラムを取り入れることを否定はしないものの、子供たちはあくまでもドイツの学校のカリキュラムを中心に学ぶべきだという考えを明らかにしました。

州ごとに学校のシステムが違うドイツ

ドイツでは州によって学校のシステムやカリキュラムが違うので、一概に「ドイツではこう」とは言えないのですが、それは今回のウクライナの子供たちの学校教育に関しても同じです。

たとえば、北西部ニーダーザクセン州、バルト海沿いのメクレンブルク=フォアポンメルン州、南西部ラインラント=プファルツ州、中西部ザールラント州や中部テューリンゲン州ではウクライナからやってきた子供たちを最初から地元の子供と同じ「普通クラス」に入れます。

でもドイツのその他の州では、ウクライナ人の子供はまずWillkommensklasse(外国から来た子供のための「ウェルカム・クラス」)に入り、そこでドイツ語を集中的に学んでから「普通クラス」に移る形をとっています。

ドイツの政府は「ウクライナ人の子供のウクライナ語の学習や、ウクライナのカリキュラムにも配慮したい」としていますが、実際にはドイツのほとんどの州で「ドイツの学校システムに基づき、ドイツ流のカリキュラムを中心に子供たちのドイツの学校への統合を図る」ことが行われています。

唯一の例外がポーランドとも国境を接する東部ザクセン州で、ここでは子供たちが「午前中はドイツ語」で学び、「午後はウクライナ語」で学ぶという「ほぼ半々」の状態が続いています。

当初は「ウクライナ人としてのアイデンティティーを保ったままウクライナのカリキュラムに沿った授業をしてほしい」としていたウクライナ側と、「それらを否定はしないけれど、それはあくまでもドイツ語を習いドイツに統合した上で行われるべきだ」としていたドイツ側とで見解の違いが浮き彫りになっていました。

でも戦争が始まってから4カ月が経ち、戦争の収束がいまだに見えていない現在、ドイツの多くの学校では、ウクライナからの生徒がドイツのカリキュラムをメインに授業を受け、その上でオンライン授業も活用しながらウクライナ語の授業を補足として受けるという形に落ち着いています。

たとえば南東部バイエルン州では、ウクライナから来た子供はまずWillkommensklasse(外国から来た子供のための「ウェルカム・クラス」)でドイツ語を学び、その後、5年生から9年生(1115歳)の子供たちはBrückenklasse(「架け橋クラス」)に移り、週に10時間ドイツ語を習います。

小学校1年生から4年生の子供は「ウェルカム・クラス」を終えると、元からドイツにいた子供たちと同じ「普通クラス」で学ぶというスタイルです。その上で希望する子供はウクライナ語の授業も追加で受けられるという仕組みです。

ウクライナで教壇に立っていた先生も、その多くが難民になることを余儀されました。

ドイツはその一部の先生を学校で雇うことで、子供たちの学校生活をサポートしています。

難民だった経験生かすドイツの先生

難民や移民の子供たちを受け入れている「ウェルカム・クラス」では「かつて自分も難民だった」という先生の経験が役立っています。

たとえば、ベルリンの学校Lessing-GymnasiumではArberi Veselaj氏がウェルカム・クラスを担当していますが、彼女自身もかつてはコソボからの難民でした。

父親が政治的な理由で追われていたため、両親は彼女を連れ30年前にコソボからドイツに逃げ、Veselaj氏は5歳になるまでドイツの難民受け入れ施設で育っています。小学校に入学するまで彼女はドイツ語を一言も話せませんでしたが、その時の記憶が難民の子供たちに授業をする際に役立っているといいます。

新聞の取材に対し、Veselaj氏は「私はウクライナ語もロシア語も話せません。だからあらかじめクエスチョンマークの絵が描いてあるプラカードを教室に用意しました。生徒に何か分からないことがあれば、このクエスチョンマークを指で指せばすぐに質問があるということが分かります」と授業の様子について語りました。時にはウクライナ人の生徒たちに英語で説明をし、生徒の中で英語のできる子が他の子に通訳をすることもあります。

Veselaj氏は「つらい思いをしている子供たちだからこそ、先生の理解が必要」と話します。

ある日、ウクライナ人の男子生徒の誕生日でしたが、彼は浮かない顔をし、「お父さんがまだウクライナにいるから誕生日はお祝いしたくない。皆に誕生日の歌も歌ってほしくない」と話しました。そういう生徒に理解を示し、希望に沿うことも先生の役割だといいます。

夢と現実のはざまで

「もうすぐ戦争が終わり、国に帰る」と夢見る難民たちと「現実」との間には悲しいことに大きな隔たりがあります。

ショルツ首相が所属する中道左派の社会民主党(SPD)の政治家でありベルリンで長年教育政策を担当してきたMaja Lasic氏は、自らが10代の頃に旧ユーゴスラビア紛争からドイツに逃げた元難民です。

ドイツに逃れた後、彼女はドイツで大学入学資格を得てドイツの大学で生物化学を学び修士号を取得。20162021年までベルリン市議会議員の議員を務めました。

長年ドイツの教育現場で難民や移民の子供たちの統合に力を入れてきた彼女は、冒頭の「ウクライナ人としてのアイデンティティーを大事にするべきであり、ウクライナの学校のカリキュラムを優先すべきだ」というウクライナ総領事の発言を受け、ハッキリとこう言い切っています

「難民としてドイツにやってきて、ドイツの学校に通っている子供たちについて、本人や周囲の『すぐに国に帰るだろう』という希望的観測が現実になったことは今まで一度もありません」

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