「ヒット商品は企業だけでは作れない。消費者と一緒に作るもの」コロナ禍で変化する企業と消費者の新しい関係 - @DIME

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発売中のDIME8月号では「新しい働き方マニュアル」と題し、コロナ時代を生き抜くヒントを識者31人に取材している。今回はその中の一人である佐々木康裕氏の取材の中からスペースの都合で本誌に盛り込めなかった内容を大幅に追加し、ご紹介する。

Takramビジネスデザイナー
佐々木康裕さん
クリエイティブとビジネスを越境する ビジネスデザイナー。著書に『D2C「世 界観」と「テクノロジー」で勝つブラ ンド戦略』(NewsPicksパブリッシン グ)、『感性思考(』SBクリエイティブ) がある。

企業と消費者の関係はこれからさらに変化する

 私たちの生活は多くの人たちに支えてもらっていることを、新型コロナウイルスは気づかせてくれました。商店や飲食店、ホテルもコミュニティーを支える一員と捉え、責任ある消費者として、経営が危なくなったところには支援が不可欠だと実感するようになりました。

「キッチハイク」という食関連サービス企業が、未来のお客さんを募るかたちで飲食店を支援する新規サービスを開始したのはそのいい例だと思います。

 消費者は何かを消費するとき、誰かのためになっていると感じられると大きな満足感が得られます。企業は目の前の消費者だけでなく遠くにいる他者に対してもメリットを提供でき、そのことを消費者に伝えることが大事です。

 企業と消費者の関係は現在、デジタルでつながり始めたところですが、現在は変化の第1段階です。その先に第2段階があると思っています。それは、デジタルドリブンのブランディングです。つまり、消費者の利便性を上げるだけではなく、どんな人がつくっているのか、どんな思いでつくっているのか、何にこだわっているのか、といったコンテクストを、デジタルを介して消費者に示していくことが必要です。

 今や企業はコミュニティーを構成する公器ともいえます。そのため負わなければならない責任は多く、その責任を果たしているかどうかがブランドイメージに直結するようになっています。金儲けだけを考えて活動していると、前述した責任ある消費者からは支持されなくなります。コロナ禍をきっかけに、消費者がこのような気づきを得ていることはポジティブな変化だと思います。

 また、ブランドの売上も概念が変わるでしょう。今までは店鋪ごとの売上の合算がブランドの売上でしたが、企業と消費者がデジタルでつながるようになった現在、誰が、いつ、どこで、いくらの買い物をしたことがわかるようになります。つまり、ブランドの売上はユーザーごとの購入価格の合計と変わるわけです。店鋪で購入しようがECで購入しようが関係なくなる世界をつくる時ではないのでしょうか?

グルメアプリの「キッチハイク」は新型コロナウイルスで苦境に陥る飲食店対策として 「#勝手に応援プロジェクト」 をスタート。数か月後まで利用可能な飲食チケットを販売し、5月末時点で1200万円以上を集めた。

ECでもリアル店舗同様の買い物が可能に

 アメリカでは2009年から新型コロナウイルスが蔓延する直前までの間で、全消費に占めるECの割合が5%から16%に拡大しています。11年近くかかって11%拡大していますが、新型コロナウイルス蔓延以降わずか8週間で、全消費に占めるECの割合が27%になりました。大都市を中心にロックダウンが実施されたため、ECの利用が急速に進みました。日本でも今後、似たような変化を遂げるのではと思われます。リアル店舗とECの棲み分けは難しいですが、これから1年ぐらいは店鋪の売上が落ちると思われるので、ECの売上を伸ばすことは大事です。

 今後のECでは、試着や採寸といったリアル店舗でできたことを実現することが望ましいです。AIを使ったヴァーチャル試着や過去に購入した服のサイズデータとの比較検討を可能にすることは、デジタルテクノロジーである程度のところまで実現可能です。デジタルテクノロジーが発達すれば、ECサイトでもリアル店舗同様の買い物ができるようになりますが、伝統的な小売業ではデジタルテクノロジーを開発することは難しいので、IT技術を持っている企業との連携が進むことになるでしょう。

ヒット商品は企業だけでは作れなくなった

 新型コロナをきっかけにした企業と消費者の関係の変化により、商品開発の考え方も変わってくると思います。商品を開発する主体が企業であることは変わりませんが、これからは消費者と一緒になってつくっていくことが大前提になるでしょう。コミュニティーをつくり、熱狂的なファンとディスカッションを重ねながら開発を進めることが必要です。

 これまでのヒット商品は、ある意味、世の中にあった数々の不便を解決するソリューションで便利だから広がりました。しかし、現在は昔と違い、不便なことが少なくなってきています。不便を解決するものよりは、ニッチでも深く刺さるものをつくったほうがいいと思います。

 そして、数を売って儲けることを重視するよりも限られた人たちから深く感謝されることに喜びを見いだせる人が、次世代のヒットメーカーになるはずです。

※この記事は、6月16日に発売された『DIME』8月号「各界の識者31人が大胆提言![ポストコロナ時代を賢く生き抜く!]新しい働き方マニュアル」の内容を、加筆修正したものです。特集の詳細は、本誌をご覧ください。

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※電子版には付録は同梱されません。

取材・文/大澤裕司

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