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「私は普通」それがここでは温かい 山小屋への愛を込めた「カフェヒュッテ」 - 朝日新聞社
comot.prelol.com辻堂駅から、海にまっすぐつながる海浜公園通り沿いに、白壁に大きな窓が印象的な「カフェヒュッテ」がある。場所は、先日ご紹介した「Chigaya Bakeshop(チガヤ・ベイクショップ)」のおとなり。
カフェヒュッテの店主、望月深雪さん(34)がここにカフェをオープンしたのは、鈴木ちがやさんがチガヤを出店した1年後の2015年。偶然ではあるが、若い年代によるカフェが仲良く並びあう光景は、まち暮らしの楽しみを、やさしくふくらませている。
栃木県佐野市で育った望月さんは、10代から「カフェをやりたい」という夢を抱いていた。同じ栃木県内の黒磯には、古い木造の建物を使って日本のカフェシーンを革新した「1988 CAFE SHOZO」があり、そこを訪れては、自分の夢を確認していたという。
「最初は漠然とした、ただのあこがれ。でも、カフェが好きだ、という思いだけは、とてつもなく大きくて、それが冷めることはありませんでした」
大学で建築を学んだ後、キッチンメーカーに就職。勤めを続けながら、社会人向けのカフェ開業スクールに通い、メニュー構成の基本とともに経営についても学んだ。
その間、各地でカフェめぐりを繰り返し、自分が好きな空間やディテール、料理などについて、独自のスクラップブックもつくりあげた。
一方で、山登りの楽しさに目覚めたのが、このころ。ちょうど登山にハマる「山ガール」が注目された時期で、それまで質実第一だった山小屋にも変化が訪れていた。
「たとえば北アルプスの燕岳(つばくろだけ)にある『燕山荘(えんざんそう)』では、山小屋ならではの素朴な美しさ、清らかさがあって、心が癒されました。驚くことに、ここではケーキバイキングもあったんですよ!」
14年、結婚を機に会社を辞め、尾瀬の山小屋や町場のレストランにアルバイトで入り、現場を体験。1年後に、現在の場所を見つけて、いよいよカフェオープンへと進んだ。店名の「ヒュッテ(Hütte:ドイツ語で山小屋)」には、山小屋への愛と親しみが込められている。
夢に向かって一歩一歩、具体的なアクションを積み重ねていった望月さん。
「カフェのオーナーって、個性の強い方が多いと思いますが、私は申し訳ないくらい普通なんです」
そういって、はにかむ。
開業用の資金も、会社員時代にコツコツと貯(た)めていたが、それでもひとりでカフェを開くことには、不安とためらいがあった。その背中を押してくれたのは夫だった。
「いまの時代に保守的かもしれませんが、私にとって生活は家庭中心で、夫に負担をかけたらダメだな、ということはずっと思っていたのです。でも、むしろ彼の方がカフェに前向きで、現実的なことをどんどん決めていってくれて。いまも大きな支えになってくれています」
カフェヒュッテを訪れる人たちの表情は、海浜公園通りにふりそそぐ陽光のように、おだやかで明るい。望月さんのいう「普通」が、ここでは、まっすぐな幸福感、安心感につながっているのだ。
カフェヒュッテ
〒251-0047 神奈川県藤沢市辻堂6-3-10
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PROFILE
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清野由美
ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、92年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、『観光亡国論』(アレックス・カーと共著・中公新書ラクレ)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。
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猪俣博史(写真)
1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。
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August 14, 2020 at 09:49AM
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