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＜取材ノート＞愚直で不器用な「鉄人」 ラグビー引退の大野均 - 東京新聞
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激しいプレーを見せてきた大野均＝２０１２年３月、国立競技場で
うまい選手とすごい選手は必ずしもイコールではない。ラグビーのロック大野均（東芝）が引退を表明した５月下旬の記者会見で改めて思った。日本代表歴代最多キャップ９８の金字塔を打ち立てた４２歳が「へたくそだった。パスやキックが上手ならプレーの選択を迷い、長く続けられなかった」と明かしたのだ。
「激しさ」を武器にしてきた。身長１９２センチ、体重１０５キロの大柄な体を生かした骨のきしむようなタックルや密集戦でのしつこさが持ち味。東芝の後輩、リーチ・マイケルも「クレイジーでゾンビ。打たれても打たれても立ち上がる」と舌を巻いた。巧みなパスやキックはなくとも、一心不乱に体を張り続けた。
大学からラグビーを始めたので技術が未熟というのが、シンプルなプレーに徹した最大の理由。加えるなら、その考えをより強くした苦い経験があった。
２０１１年、自身２度目のワールドカップ（Ｗ杯）だったニュージーランド大会。１次リーグ初戦のフランス戦で先発を外れた。不本意に思い、ヘッドコーチのジョン・カーワンに「なぜ」と問うた。「昔なら密集で他の選手と違うことが起きた」。指揮官に力の衰えを指摘された。
この大会は、東日本大震災の発生から半年後に開かれた。故郷の福島にも甚大な被害が出ており、「自分の姿を見て勇気を出してもらえれば」との思いは強かった。その初陣で控えに回り、交代の声もかからず。当時、既にベテランの３３歳。屈辱と危機感からできることを突き詰め、「激しさ」の極致を目指した。
その後の活躍はご存じの通り。１５年Ｗ杯イングランド大会では、チーム最年長の３７歳でメンバー入り。南アフリカを破る大金星を挙げた１次リーグ初戦は、先発でピッチに立った。「灰になっても、まだ燃える」の信条を地でいくサクセスストーリーだった。
昨年のＷ杯日本大会では、ＦＷもタックルを受けながらのオフロードパスなど多様な技術が求められた。大野が４度目の舞台に呼ばれなかったのは、時代の必然だったのかもしれない。ただ巨漢たちの激しい肉弾戦は史上初の８強入りの原動力だったし、これからも変わらないラグビーの魅力だろう。
「鉄人」と称された大ベテランは、これからの日本代表を担う後進にエールを送った。「世界で勝つにはハードワークが欠かせない」。不器用で愚直な古き良きラガーマンの、偉大な足跡を表す言葉でもあった。 （対比地貴浩）
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