Judul : エルサレムはどんなところ?三つの宗教、ユダヤ人、パレスチナ人にある「見えない壁」:朝日新聞GLOBE+ - GLOBE+
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エルサレムはどんなところ?三つの宗教、ユダヤ人、パレスチナ人にある「見えない壁」:朝日新聞GLOBE+ - GLOBE+
comot.prelol.com予想もしなかったこの場所で暮らし始めてもうすぐ2年。少しずつわかってきたことをもとに、エルサレムのことを綴ってみようと思います。
まず宗教の話です。エルサレムにはユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地があり、人々の信じる宗教は様々です。
聖地があるのは壁で囲まれた旧市街と呼ばれる場所で、多くの人が聖地巡礼に訪れます。旧市街は私の自宅からも徒歩10分と近く、時々足を運んでは雰囲気を味わっています。
エルサレムでは、日本人を含むアジア人を見かけるのは珍しいのか、地元の人たちからは「観光客?」「ここで何をしてるの?」「キリスト教徒ですか?」などと聞かれます。裏を返せば、それだけ宗教的に特別な意味を持って住んでいる人が多いということでしょう。
次に、エルサレムの東西についてです。
東エルサレムには主にパレスチナ人、西エルサレムにはユダヤ人がそれぞれ住んでいます。
パレスチナ自治政府は東エルサレムを将来的な国の首都と位置付けています。
一方、イスラエルは東エルサレムも併合し、エルサレムについて、東側を含めて自国の首都として扱っています。ただ、国際社会は認めておらず、日本を含む多くの国は大使館をエルサレムではなく、テルアビブに置いています。
エルサレムめぐる問題は、パレスチナとイスラエルとで「平行線」のままです。
ちなみに東エルサレムの外側には分離壁があり、その向こうにはパレスチナ自治区があります。
ユダヤ人のドライバーが運転するタクシーに乗り、「東エルサレムまで行って」とお願いすると、ユダヤ人にとっては危ないから行けないなどと、手前で降ろされることもしばしばあります。
ユダヤ人の友達も、全員ではありませんが、東側に行きたがらない人も多くいます。このように、エルサレムでは、東西を隔てる「見えない壁」があるのです。
私のような外国人にとっては、東側だろうが西側だろうが危険という感覚はありません。政治的な情勢によって変わることはありますが、東側でも西側でも基本的に外国人が狙われることはありません。
私自身は西側に住んでいますが、東エルサレムに住むパレスチナの友達に会いに行くこともよくあります。
普段からユダヤ人とパレスチナ人が一緒に働いたり、同じ学校で学ぶケースもあるものの、エルサレムでは生活エリアが分かれているのが現実です。
東の方が物価は安く、店にはアラビア語が書かれていて、西側のユダヤ人地区と比べると雰囲気は異なり、同じエルサレムでもまるで違います。
西側では、ユダヤの文化に触れる機会はたくさんあります。代表的なのは「シャバット」と呼ばれるユダヤ教の安息日です。
金曜の日没から土曜の日没にかけては労働が禁じられていて、ユダヤ人の主な生活圏である西側では店や公共交通機関などほとんどがストップします。
敬虔なユダヤ教徒の人たちは日没後、電気をつけたり消したりすることやスマホを見ることができません。
金曜の安息日に食べる夕飯、通称シャバットディナーに招かれると、場所がわからなくて連絡をとりたくても、彼らはスマホを見ることができないので事前に場所を確認しておく必要があります。
日本ではなかなか想像できないことですが、安息日に外を歩いていると、ユダヤ教徒から「自分達はスマホを見ることができないからこれを調べてほしい」とか、「電気をつけに家に来てほしい」などと頼まれることもしばしばです。
金曜日に西側で買い物に行く際、お店が閉まる前の昼頃までに済ませる必要があったり、土曜日に食材を買いに行くときは東側まで車で出かけたりしています。
私はアパートの4階に住んでいるのですが、安息日の間はエレベーターのボタンを押す行為すら労働とされることから、各階に自動で止まるようになっています。こうしたエレベーターは通称シャバットエレベーターと呼ばれています。
速度が遅いので、安息日中は階段を使います。上りは特に息が切れます。
高層マンションなどでは、シャバット用のエレベーターと、そうでないものが両方設置されていることがあります。
他にも例えば、ユダヤ教の光の祭典、ハヌカーの間は至る所でロウソクの明かりを見ることができます。
また、「仮庵の祭り(スコット)」の間は、ベランダや庭などに白いテントのようなものが設置されたりして、家族団欒のにぎやかな声やバーベキューの香りが漂ってきます。このようにユダヤの祝祭日は様々です。
一方、東エルサレムでは主にパレスチナ人が信仰するイスラム教の決まりや慣習に出合うことができます。1日に何度か、イスラムの礼拝の時間を告げるアザーンが鳴り響いています。
今はまさにイスラム教徒にとって重要な「ラマダン」という断食月の最中です。
日没後に家族や親戚が集まってその日最初のご飯を食べます。このご飯のことを、イフタールと呼んでいます。
イフタールに招いてもらった時は、1日何も食べたり飲んだりしていないからか、皆さんすごい勢いで食べているように感じました。
ラマダンの時に食べるカタイエフというデザートがあります。小さめのパンケーキにナッツまたはチーズを入れて焼いたり揚げたりしたもので、表面には甘いシロップがかかっていて、この時期にエルサレムの旧市街などで出回ります。
日中は水すら飲まない人もいるため、こういった人たちと一緒にいると自分だけ水を飲んだり食べたりするのが申し訳なく感じられることもあります。
また、日中はご飯を食べられるような飲食店は東エルサレムではほとんどが閉まっています。ラマダンの時にはイルミネーションを点灯させる家や店があるので、東側は彩(いろどり)が豊かになって綺麗です。
私は今年1月までエルサレムにあるイスラエル国立ヘブライ大学の大学院に在学していました。所属するゼミは30人ほどで、Nonprofit managementとLeadershipを専攻していました。
ヘブライ大学のインターナショナルスクールだったのですが、同じゼミで学ぶ7割近くがアメリカから来たユダヤ人(アーリヤと言って、ユダヤ人がイスラエルに移住することを意味する人たちが多い)で、パレスチナ人が2割、残り1割がヨーロッパやアジアからの学生(主にキリスト教徒)といった構成でした。
コロナ禍でリモート授業が7割でしたが、グループチャットではユダヤ教・イスラム教の互いの宗教の祝祭日の際にお祝いのメッセージを送り合うような交流があったり、互いのバックグラウンド関係なく、課題に一緒に取り組んだりサポートをし合う姿も見られました。
この地ならではのユニークな光景も見られます。例えば、語学のコースでは、パレスチナ人の友達は英語、アラビア語、ヘブライ語の3言語を話すことができるため、ユダヤ人の正統派の学生にヘブライ語を使って英語を教える姿も印象的でした。
一方で、仲が悪いわけでもお互いを嫌い合っているわけでもないのですが、ユダヤ人はユダヤ人同士、パレスチナ人はパレスチナ人同士でチームを作ることがあります。
もちろん、バックグラウンドが同じ人の方が意見が合いやすいとか、プロジェクトを作りやすいといった理由もあるのですが、ここでも、「見えない壁」が存在するのかと感じたこともあります。
また、テルアビブの住んでいるユダヤ人(29歳)は、東エルサレムに住むパレスチナ人と話したのがこの大学院の授業で初めてだったといいます。「(僕のこと)嫌われていると思ってなかなか話せなかった」と本音を打ち明ける姿も印象に残りました。
私のクラスメイトもそうですが、街を歩いていてもネイティブの英語を聞くことが多いです。
イスラエルの建国は1948年。いろんな国からユダヤ人が移り住んだことから、英語圏(主にアメリカ)から来た人も多く、おおよそどこでも英語が通じるので、現地の言葉、ヘブライ語ができないと生活に困るというわけではありません。
これは東側、西側の両方に言えることですが、いわゆるアジア人差別というものもほとんどなく、外国人にとっては居心地がいいです。
スリなどといった被害も聞かないですし、特別に行ってはいけない治安の悪い場所もないので、日本の皆さんにとっては意外かもしれませんが、その意味では過ごしやすい、住みやすい場所と言えると思います。
ただ、ユダヤ人(イスラエル人)とパレスチナ人の対立や衝突などは日常茶飯事です。2021年5月、イスラエルとパレスチナの攻撃の応酬が記憶に新しいですが、この衝突の発端の一つとして、イスラエルの治安部隊とパレスチナ人の小競り合いがエルサレムの旧市街の入口、ダマスカス門でありました。イスラエルの治安当局が、この門の前にバリケードを設置し、パレスチナ人を追い払おうとしたことが事の始まりでした。
この時はイスラム教徒にとって大切なラマダンの最中で、このダマスカス門を通って旧市街に入り、礼拝に訪れるパレスチナ人が多いからです。
たまたま通りがかった時に、スタングレネードを使ってイスラエルの治安部隊がパレスチナ人を追い払おうとするところに遭遇しました。
近くの土産物店の方が「危ないから中に入って」と、騒動が落ち着くまで店の中に入れてくれましたが、初めての経験に恐怖を感じた瞬間でした。
あれから、間もなく1年。現在、ラマダンの最中(5月頭まで)なので、今年は平穏を祈りつつ過ごしているところです。
もちろん、パレスチナ人がイスラエル人(ユダヤ人)を攻撃するケースもあります。
最近では、4月7日にイスラエルの商業都市・テルアビブでパレスチナ人(アラブ人)の男によるテロ事件がありました。このところ、こういった事件が相次いでいます。
ただ、エルサレムのショッピングモールや路面電車などでは、イスラエル人警察官が、パレスチナ人を「狙い撃ち」する形で職務質問する姿をよく目にします。こうしたことは珍しくなく、エルサレムにいると、パレスチナ人を取り巻く不条理を感じることは多いです。
例えばこんなこともありました。
パレスチナ人の友達の家族が武器を持っていないにも関わらず、イスラエルの治安部隊から所持を疑われ、ダマスカス門前で射殺されたと聞きました。
そんなこともあって、ユダヤ人(イスラエル人)と話す時と、パレスチナ人と話すときでは、それぞれ内容に気を遣うことがあります。
一見、互いにコミュニケーションを取っているように見えても生活圏やコミュニティも分かれてしまっているのです。
エルサレムではユダヤ・イスラム・キリスト教、パレスチナ・イスラエルの様々な文化にも触れることができるので、外国人の私にとってはユニークな場所といえます。
お互いの文化を尊重し合う人たちも、もちろん存在するのですが、宗教と政治が複雑に絡み合うこの場所が抱える問題に解決の兆しはなかなか見られず、部外者でありながら気が重くなる瞬間があります。
文化、宗教、見えない壁、さまざまなことを感じながら、エルサレムで日々を送っています。
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April 23, 2022 at 07:06AM
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