メタバースの真価は「偶然の出会い」にあり 三宅陽一郎氏の視点 - 日経クロストレンド

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メタバースの真価は「偶然の出会い」にあり 三宅陽一郎氏の視点 - 日経クロストレンド

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メタバースとゲーム産業の親和性は高い。ベースの技術から、仮想空間にダイブした人たちを楽しませる仕掛けまで、知見の宝庫と言える。ゲームAI(人工知能)開発のトップランナーとして知られる三宅陽一郎氏は、メタバースにどのような可能性を感じているのか。(聞き手は、『メタバース未来戦略』(日経BP)著者の久保田瞬、石村尚也)

※本連載は新刊『 メタバース未来戦略 』より、識者インタビューを転載したものです

三宅 陽一郎(Yoichiro Miyake)氏

ゲームAI研究者・開発者。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。立教大学大学院人工知能科学研究科特任教授、九州大学客員教授、東京大学客員研究員・リサーチフェロー。国際ゲーム開発者協会日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、日本デジタルゲーム学会理事、人工知能学会理事・シニア編集委員、情報処理学会ゲーム情報学研究会運営委員

――ゲーム業界において、AI(人工知能)を中心に長らく研究・開発を続けている三宅さんとしては、メタバースをどのように定義していますか?

三宅陽一郎氏(以下、三宅) 「多人数が同時にログインしている」「空間がある」ことが前提だと考えています。SNSやビデオ会議は、なぜメタバースと呼ばれないのか。それは空間がないからです。

 ただ、空間というと3Dをイメージする人が多いかもしれませんが、必ずしも3Dである必要はないと思います。2Dでも、例えば街や大学のキャンパスといったものを再現するなど、場所に「意味」を持たせられれば空間は設定できます。

 オンラインゲームとの違いという点で見ると、「目的や物語がなくても成立し得る」ことが、メタバースの特徴でしょう。オンラインゲームの場合は、プレーヤーの役割と世界観があらかじめ決められており、その枠内で遊ぶのが基本。つまりロールプレーイングですね。後は、「敵をやっつける」「アイテムを集める」といった目的もはっきりしています。

 もちろん目的のあるメタバースもありますが、目的や物語が必須ではないという点が異なると考えられます。役割も物語も世界観もないけれど、反対に「箱庭」であるが故の自由度や強さがあると思います。

――ゲーム業界から見て、目的のない空間に人が集まる現象をどう捉えていますか。

三宅 空間に目的がなく集まるという動きは、実はオンラインゲームではすでに醸成されつつありました。例えば、セガが運営している「ファンタシースターオンライン」。2000年よりサービスが開始されましたが、当初はゲーム内に入ったらロビーがあり、そこは何をやってもいい空間でした。チームを組んで演劇をやる人もいれば、ただ集まって話しているだけの人もいました。

 このようにゲーム世界における“中立地帯”は、他のゲームでもちょこちょこありましたね。米Epic Games(エピックゲームズ)の「Fortnite(フォートナイト)」もその象徴的な例で、当初バトルロイヤルゲームだったけど、戦わないユーザーが増え、そういう遊び方にどんどん対応していきました。ゲームがメタバース化していっているとも言えるかもしれません。

『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』(日経BP刊)

『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』(日経BP刊)

 実は、今のメタバースのトレンドは、2017 年以降の波のことを指していると考えています。前述のフォートナイトも17年にローンチされました。

 メタバースブームの第1期は1990 年代後半に遡ります。ゲームで言えば、アイスランドのCCPGames(CCPゲームズ)が開発したMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)の「EVEOnline(イブオンライン)」(03年にサービス開始)が一例です。果てしない宇宙があり、資源を輸送してお金を稼いだり、ギルドに入って自身が所属する星系を維持するための活動を分担して行ったりする。空間があり、コミュニティーが生まれました。

 第2期が、米Linden Lab(リンデンラボ)の「Second Life(セカンドライフ)」がけん引した2005年前後以降。ゲーム業界では、「セカンドライフは何か」という議論が活発に交わされました。ゲームではないけれど、人が集まっているメタバース空間は当時、ゲーム産業から見てたいへん刺激的でした。ゲーム業界でもメタバース的なサービスを開発する動きが続々と出てきました。

 ただ、当時はソーシャルゲームがはやる前であるのに加え、少額課金も暗号資産(仮想通貨)の仕組みもなく、決済面の自由度も低かった。また、当時の携帯端末のスペックでは3Dを動かすのは困難で、一般化するのは難しい状態でした。

 その後、SNSが普及し、デジタルでのコミュニケーションが当たり前に。さらに、暗号資産も広がり、パーツがそろってきたことで再びメタバースを構築しようという動きが加速しています。

 もう一つ、今回のトレンドで重要な視点があります。「ユーザーが自由に何かを作れること」、すなわちUGC(ユーザー生成コンテンツ)です。例えば、スウェーデンのMojang Studios(モヤン)が2011年にリリースした「Minecraft(マインクラフト)」。とにかく何でも作れて壊せるのが特徴です。ゲーム業界は、いかにグラフィックを高めるか、動きをリアルにするかを突き詰めてきました。対してマインクラフトは、グラフィックはとてもシンプルです。でも、人があれだけ集まっていることはまさに衝撃でした。

 そんな中、ゲーム業界はマインクラフトをどのようにして超えるのかを考え始めました。ユーザーが作ったものを公式に売買できたり、暗号資産を組み合わせて“現金化”できるようにしたり、マインクラフトにはない仕組みを模索するようになったのです。The Sandbox(ザ・サンドボックス)が12年にサービスを開始した「ザ・サンドボックス」はまさに、ユーザーが自由にゲームや空間、アイテムなどを作れ、そして17年に暗号資産の仕組みを導入後、稼げるサービスとして成長を遂げています。

 前述のように、端末の進化、暗号資産・ブロックチェーン技術の普及、そしてユーザーが自由に作れるUGCという流れがベースにあり、オンラインゲームが培ってきたノウハウが融合してメタバースの構築が加速しています。

 メタバースそのものが好きな人は、アーリーアダプターとしてそんなに儲からなくても面白い、自分のエリアを作れることが面白い、といった文脈でも楽しんでいます。しかし、何も興味なかった人がこれほど反応してドライブしているのは、「経済という物語」が加わっているからだと思います。簡単に言うと、現実をもう一つ作ったという文脈。そうしてそこに人が集まり始めれば、リアルな新宿に店舗を置こうが、メタバース空間に置こうが同じことなので、企業も参入してくるわけです。

メタバース時代は複数のAIエージェントが活躍する

――専門領域であるゲームAIと、メタバースの関係性はどう見ていますか。

三宅 ゲームAIはメタバースとの相性がいいと考えています。現実空間においてAIで人間の相手をしようとすると、とても大変なのです。表情や声色、身ぶりなど、人間同士では自然に読み取り、判断できますが、AIにとっては極めて難しい作業です。

 対してメタバース時代には、人間が体を“捨てて”デジタル空間に来てくれるわけですからAI にとっては願ってもない環境です。人間の行動や状態のログが一人ひとりすべて取れますし、経済活動や行動履歴、誰と話したのかといったことも全部AIによる追跡が可能になる。それを駆使してAIを作れるし、人間をより助けやすくなると考えています。

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