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月・火星の宇宙放射線把握に挑む、JAXAの技術開発の現在地|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 - ニュースイッチ Newswitch
地磁気圏外への人類活動領域の拡大を目指した「国際宇宙探査」の計画が進んでいる。その重点課題のひとつが地磁気圏外の「宇宙放射線」だ。有人宇宙探査では、宇宙飛行士が宇宙に滞在する期間中の低線量長期被ばくや、太陽フレアによる突発的な被ばく量の増大は健康リスクとなる。無人探査でも、使用する電子部品の放射線耐性や長期飛行による劣化影響が課題だ。宇宙放射線の状況を正確に把握し、その対策をとる必要がある。
現在日本では、将来の宇宙探査活動に向けた先行活動として、月・火星の宇宙放射線環境を把握するためのさまざまな計画がある。2022年に、米航空宇宙局(NASA)月周回軌道ロケットSpace Launch System(SLS)1号機で打ち上げ予定の日本の「月着陸超小型探査機OMOTENASHI」には、JAXA/産業技術総合研究所が開発したD―Space超小型能動型線量計が搭載される。
日本初の地磁気圏外の宇宙放射線環境の計測機会となり、約1週間のOMOTENASHIミッション期間中の、1分ごとの被ばく線量を計測し、データを地球に送信する。
24年度に打ち上げ予定の火星衛星探査機計画(MMX)には、火星近傍のエネルギースペクトルを計測する惑星空間放射線環境モニターIREM(Interplanetary Radiation Environment Monitor)が搭載される。現在、開発モデルの製作や、重粒子照射試験によるセンサー特性や解析ロジックの評価を行っている。
さらに、24年度から建設開始予定のAltemis計画の月近傍有人拠点Gatewayでは、宇宙放射線環境計測国際共同ミッションの一環として、宇宙船内の環境把握や宇宙飛行士の被ばく線量計測を評価するためにD―Space線量計が搭載される。
また、今後のAltemis計画での月周回・月面ミッションに向け、IREMのセンサー構造を組込んだ広範囲のエネルギー測定ができる超小型チェレンコフ検出器(RICheS)や、宇宙放射のリアルタイムLET・線量モニター(PS―TEPC)の技術開発も進めている。
これらの国際宇宙探査ミッションを通し、宇宙放射線の様子を定常的に把握し、さらには月・火星の放射線環境の線量予測研究へ発展させていきたい。
研究開発部門 第一研究ユニット 研究領域主幹/専門技術リーダー 永松愛子
99年入社。00年よりJAXAにて、国際宇宙ステーション日本宇宙実験棟「きぼう」の宇宙放射線被ばく線量計測(宇宙飛行士の個人被ばく線量計測、「きぼう」定点環境モニタリング、放射線生物影響研究)および宇宙放射線挙動解析シミュレーションを含む遮蔽(しゃへい)防護技術開発に従事。現在はJAXA研究開発部門にて、国際宇宙探査に向けた宇宙放射計測の代表研究者を務める。
日刊工業新聞2022年8月1日
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