盲目の少女が強盗たちに立ち向かう『シーフォーミー』からみる映画と視覚障害 - otocoto.jp

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盲目の少女が強盗たちに立ち向かう新感覚FPSスリラー、映画『シーフォーミー』が8月26日(金)に全国公開された。

本作は雪に閉ざされた豪邸を舞台に、主人公ソフィが視覚障がい者のためのサポートアプリを頼りに、真夜中の侵入者たちに挑む姿を描いたもの。

ヒロインであるソフィーを演じたのは、同じく視覚障害のあるスカイラー・ダベンポート。彼女のリアルな声を聞くとともに、目が見えないことと映画について考えてみたい。

一味違う密室劇

人里から離れた雪に閉ざされた豪邸。視覚に障害があるひとりの少女がそこに滞在することになる。ところが夜にまぎれて屋敷内に侵入する男たちの影が‥‥。

一見すると、ジャンル映画好きをくすぐる鉄板の舞台設定だが、本作は少し違う。

「ソフィというキャラクターは、私がやらないようなことを平気でするので、少し”道徳性に欠けている”と思います」

主人公ソフィを演じたスカイラー・ダベンポートが言うように、彼女の母や友人、そして観客が望むような”いい子ちゃん”ではない。

母に辛く当たるし、タバコも吸うし、ペットシッターバイト中に窃盗を繰り返し行いネットで売る。そして「障害者は捕まらない、腫れ物扱いだから」と吐き捨てる。だから決して、か弱い女性でもなければ、一方的な被害者でもないのだ。

ダウンヒルスキーヤーとしてオリンピックに出場するという夢の半ばで視力を失ったソフィ。「人に頼りたくない、情けをかけてほしくない」と自分ひとりの力で、現実に立ち向かおうとする強烈な闘志を秘めている。介助されるだけのいい子ちゃんではないソフィを同じ視覚障害を持つスカイラーはこう分析する。

「私が視力を失ったときは、ものすごく落ち込んで、本当にたくさんの助けが必要でした。ソフィはそれとはまったく反対の方向に進んだのだと思います。彼女は自立することにこだわるあまり、人に対して冷たく接したり、怒ったりすることもありました。そういった彼女の対応も理解はできます」

また同じ境遇だからこそ、リアルな描写に心を締め付けられたこともあったそうだ。

「ソフィがボーイフレンドと電話しているシーンで『心配しないで。あなた無しじゃできないから』という台詞があるんです。パソコンや事務作業、運転などを誰かに頼まなければいけない気持ちが、私には分かるので、なんだか悲しい気持ちになって、胸にずっしりときました」

リアルという点で、本作は現代にフィットしている。作中、主人公は、音声認識機能でスマホを操作し、ビデオ通話で状況把握する。まさに現代の若者といった感じだ。そして、いわゆる鉄板設定と違う要素が、タイトルと同名の視覚障害者サポートアプリ「シーフォーミー」。

ランダムに登録スタッフが選ばれ、ビデオカメラで利用者を支援するアプリで、ともに強盗に立ち向かう相棒ケリーと出会うきっかけとなるものだ。演じたスカイラーは、映画のために考えた設定だと思っていたようだが、実際に「Be My Eyes」というボランティアが遠隔で利用者の視覚支援をするアプリが存在する。

ネットを通じて会ったこともない人間と仲間になるのは、実に今っぽい。くわえて、ケリーがFPSゲームの熟練プレーヤーであるところも、今っぽい。

FPSとは、ファーストパーソン・シューター(First-Person Shooter)の略で、プレイヤー主観視点で、ゲーム内の世界を移動することができる3Dのアクションシューティングゲームのこと。「Apex Legends」「Call of Dutysシリーズ」などが有名だ。

スマホのカメラから送られてくる敵と対峙する映像を見て、ゲームキャラのようにソフィに指示を出す。元軍人ゲーマーの判断は非常に的確。聞いていて安心感がある。

しかし、ソフィという人物は、おとなしく指示に従うような操り人形ではない。意思があり感情があり、行動力がある。またそれによって状況が複雑化し、物語があらぬ方向へ展開していくのが面白い。この魅力について質問したが、スカイラーの答えに、まったく同意見だ。

「この映画で最も称賛すべきなのは、恐怖心を克服するソフィの能力です」

本作は、古典的なジャンル映画とも言えるホーム インベージョン・スリラーに、FPS要素を組み込んだだけではない。他人に頼りたくない主人公が、遠隔支援を可能にするネット環境のなか、スマートフォンという武器で戦う現代劇だ。目の見えない善人が悪漢の手から逃げ惑うという、ありふれた物語をリアルなストーリーに昇華させている。ここにヒロインとそれを演じた俳優、この映画に関わったスタッフから「ステレオタイプでは終わらないぞ」という意気込みを感じた。

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