「何とか一緒に」帰郷の次男祈る 旅館家族3人、濁流に流され2週間 - 西日本新聞

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 いつも笑っていた家族はどこにいるのか。連日のように記録的豪雨が九州を襲い、大分県由布市の湯平温泉で旅館を営む家族が避難中に流されて21日で2週間となった。警察や消防の捜索が続くが3人は行方不明のまま。残された会社員の次男(24)=愛知県=は古里の惨状を眼前にしつつも「何とか家族一緒に送ってあげたい」と気丈に語る。

 父、渡辺知己さん(54)が同じ市内に住む弟(53)の携帯に電話してきたのは8日午前0時ごろ。「3人が流された。川の木につかまっているが、もうだめだ」。知己さんと妻の由美さん(51)、長男健太さん(28)、祖母の登志美さん(81)の4人は2台の車で移動中、自宅近くを流れる花合野(かごの)川に流された。弟は「すぐ消防に連絡する。頑張れ」と言って切り、119番。その後、折り返したが、もうつながらなかった。登志美さんの遺体は8日午後1時ごろ、下流で発見された。

 経営する旅館「つるや隠宅」は明治時代の創業で、登志美さんらが昭和30年代に買い取り、「仲良し家族」で切り盛りしてきた。

 料理上手で酒に強く、社交的な登志美さん。お客さんの話をよく聞き、いつもにこにこしている娘の由美さん。娘婿の知己さんは建設会社に勤め、休みの日には客の送迎を手伝った。

 健太さんはアニメに詳しく、2016年に旅館の公式キャラクター「電脳女将(おかみ)・千鶴」を発案。ツイッターで情報発信し、遠方からもアニメファンが訪れた。湯治客が減る地域に貢献しようと、温泉地をキャラクター化する「温泉むすめ」の湯平版を湯平温泉観光協会に提案。昨年9月に「湯平燈華」を誕生させた。地元名物の赤いちょうちんから健太さんが命名した。

 長男の頑張りは知己さんの自慢で、勤務先の建設会社社長(47)は「生真面目な知己さんが電脳女将の話になると頬を緩ませた。息子が頼もしくなったとよく口にしていた」と言う。

 家族の共通の趣味はサッカーJ1・大分トリニータの試合観戦だった。次男のスマートフォンにはユニホーム姿の両親の写真。母の日に由美さんにユニホームを贈ると「父親が『自分も欲しい』とすねた」。父の日にプレゼントすると知己さんの笑みがはじけたという。同協会の麻生幸次会長(51)は「両親、健ちゃんともやさしくて。みんな似とるんよね」と話す。

 実は、家族は被害に遭う7日、大雨を警戒して朝まで市役所に身を寄せ、昼ごろ旅館に戻っていた。由美さんは防災袋などを準備するなど普段から災害への意識は高かった。それでも急に避難せざるを得なくなるほど急激な川の増水だった。川に面した旅館の基礎部分は大きくえぐれている。

 豪雨で荒れた河川敷で捜索は続く。自らのことは二の次に、警察や消防に「ご迷惑をお掛けしている。とにかくけがなどされないように」と気遣う次男。その姿に、仲良し家族の実直で誠実な人柄が浮かび上がってくる。 (吉川文敬、稲田二郎)

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