「ミュージシャンはどんな出会いが多い?」恋愛を描き続ける二人が語る恋とお酒と音楽の関係|恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる|林伸次/古内東子 - 幻冬舎plus

06.50
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かつて「恋愛の教祖」と呼ばれたシンガーソングライターの古内東子さんが、2023年のデビュー30周年に向けたプロジェクト第1弾として、アルバム「体温、鼓動」を2月21日にリリースしました。古内さんは、お子さんを出産する前まで渋谷のバー「bar bossa」の常連だったそう。そこで、bar bossa店主で、エッセイや小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎文庫)の著書がある作家の林伸次さんと恋、お酒、音楽、そして創作活動について語り合いました。 
(構成:安楽由紀子 写真:菊岡俊子)

お酒を飲まずに恋愛が始まるのか  

林伸次(以下、林) 古内さんが最初にうちの店にいらっしゃったきっかけはなんですか。たぶん最初にいらっしゃったのは、カウンターに座られてイワシの焼いたのを頼まれたときだと思うんですが。  

古内東子(以下、古内) 必ず何か食べるんですよね(笑)。そのときが初めてじゃないです。このお店大好きで、しょっちゅうではないけどその前から来ています。きっかけは覚えていないんですけど、何人かでテーブルで飲んでたんです。ひとりで来るようになったのがその頃です。  

 初めてカウンターに座られたのがそのときかもしれないですね。正直に告白してしまうと、僕、古内さんとわかってなかったんですよ。でもおしゃれだし、芸能界の人かな、モデルさんかなと思っていたら、たまたまソニーミュージックの方がいらして「古内東子さんが来ているね」と教えてくれた。それでわかったんです。  

古内 ずっとわかってないと思ってました。ほとんど会話なさらなかったし。『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』のバーテンダーさんと比べて、「林さんは絶対こんなにしゃべらない」と思ったんですが、もしかして私にしゃべりかけてくれなかっただけですか(笑)。  
 

 あまり話しかけてこないから、とりあえずそういう距離感かなと思ったんです。

古内 私、いつも思うんですけど、二人ともお酒を飲まないカップルって、どうやって恋愛が始まっているんでしょうか。昼間にカフェでデートして気持ちが高まることがあるのかなとちょっと興味がある。  

 コーヒーを飲んで、その後キスできるのかなと思いますよね。  

古内 そうそう。でも逆に、お酒に頼らないからこそ本物なのかなとも思ったりして。  

ミュージシャンは職場恋愛が多い  

 古内さん自身の恋の話もお伺いしたいのですが。ミュージシャンってモテますか。  
 

古内 どうでしょうね。  

 男性は誘いづらいと思うんですが、誘ってくる人はいますか。  

古内 いますよ、ふつうに。やっぱり職場恋愛みたいなものだし。  

 女性ミュージシャンは職場恋愛が多いですよね。  

古内 私は割と他でも活動はしてたんですけど(笑)。以前は港区に住む港区女子で、近所の外資系のお仕事をしている友だちと飲んでました。どちらかというとふつうの仕事をしている友だちが多い。

 だったらいろんな恋愛の可能性がありますね。  

古内 ただ、確かにみんな友だちにはなるけど、デートにはあまり誘われなかったかもしれないです。そういうのは同じ苦労などを共有してくれる職場の人が多かった。  

 ミュージシャン同士は同じ悩みを抱えているから恋愛に落ちやすいのかな。  

古内 一緒に何かを作りあげる高揚感、達成感は、何にも代えがたいと思うんですね。私自身はあまりミュージシャンミュージシャンしてないほうだと思うんですけど、やっぱり自分と同じような匂いの人がいると親近感は持つし、ましてや私が作ったものをより素敵にしてくれる人だと、やっぱりね。でもどの職場恋愛もそういう感じですよね。プレセンを手伝ってくれたとか、そういうのと一緒だと思うんですけど、どうなんでしょうね。  

 欲が埋もれて芽が出ないのはもったいない

 今、若い子に恋愛があまり流行ってないという話があります。  

古内 小耳に挟んでいます。理由はめんどくさいとか、お金がかかるとか。  

 職場ではコンプライアンス的にだめとか、失敗したくないとか。  

古内 恋愛ってもっと本能的な部分なのに、気持ちがそこに向かないってことですよね。本能の立場はどうなるんでしょうか。

 恋愛しなくてもマッチングアプリで合いそうな人と結婚すればいいという感じですよね。  

古内 結婚はしたいという気持ちにはなるんですね。  

 そうですね。今また婚活が流行ってますね。日本の経済が落ちてきてるから、経済的な安定を求めて「婚活しなきゃ」という感じになっています。  

古内 じゃ、私の曲は廃れていく一方かも。やっぱりお酒を飲むところにいってデートして、お酒の力を借りて⋯⋯っていうのが私の恋愛のイメージなんですけど、お酒を飲まない、車も乗らない、欲が埋もれて芽が出ないまま大人になって年取っていっちゃうのかな。もったいないですよね。  

 お酒はどんどん飲まなくなってますね。飲酒習慣がある20代は10〜20%。すごく少ない。何が楽しいのかなと思いますね。

古内 飲めるようになりたいから練習する時期が私もあったんですけど、そういうお酒文化がないから飲まなくてもいいんでしょうね。若いミュージシャンともコミュニケーションを取る場がない。  

 ミュージシャンも飲みに行かないんですか。ミュージシャンが飲まなくなったら誰も飲まなくなっちゃいますね。  

古内 今はコロナ禍で打ち上げ自体がないというのもありますが、その前から私の周りにいるスタジオミュージシャンは飲まない人が多い。だから私、彼らのことを名前と年齢くらいしか知らないんです。楽屋やリハの間にちょっと話すくらいで、向こうも知りたいと思ってないだろうし。悲しいからどうにかならないかと思ってるんですけど。  

 90年代は違いましたか。みんなで飲みに行ってましたか。  

古内 行ってました。そのためにレコーディングをやっていたようなもの。何時になっても絶対そのあと行ってたし、飲めない人がいなかった。  

 うちもそれで儲かっていました。  

古内 お酒文化も音楽も危ういですよ。  

ピアノを弾きながら浮かぶまま作曲する  

 ニューアルバム「体温、鼓動」は曲ごとにピアニストが変わっていますね。そのほうがアルバムの色が変わって華やかになるという意図ですか。
 

古内 デビュー30周年プロジェクトということで、今までお付き合いの濃かった方、こんな言い方おこがましいんですけども、一緒に作ってきた6名のピアニストとコラボレーションしたいというところから始まっています。うち2名は今の私を支えてくれる方で、4名は先輩方です。

 「時はやさしい」では途中のピアノにボサノヴァの有名な曲「イパネマの娘」が織り込まれていますね。おもしろい。  

古内 そうなんです。おしゃれ心ですね。  

 自分の音楽がどういうポジションか、全然意識されていないと語ってらっしゃるインタビューを拝見しました。デビューされた1993年当時は渋谷系が流行っていたじゃないですか。その中に入ろうとは思わなかったんですか。自分の立ち位置は考えてこられなかったんですか。  

古内 渋谷系と何が違うのかな、ファッションかなと思ってましたけど。当時、女性シンガーを集めて「ガールポップ」と呼んでいたこともあって、ガールポップってなんじゃっていう感じなんですけども、そこも違うだろうと。  

 入れてほしくないと。  

古内 入れてほしくないなと思いながらも、ガールポップ特集に入れられたこともありました。自分としては意識してないし、どこに入ることをめざしていたわけでもない。

 高校生のときにアメリカに留学して洋楽を聞いていたこともあって「日本の音楽とは違う」と思われてた感じですか。  

古内 そんなことはないです。

 でも今回のアルバムの1曲目「虜」は、日本の曲っぽくないですよね。Aメロ、Bメロ、サビみたいな日本によくある構成ではなくておもしろいなと思いました。日本の曲っぽくしないようにしようと意識されていますか。  

古内 いえ、いつも浮かぶままです。ピアノを弾きながら曲を作って、6、7割メロディができたら、言葉をつむいでいく。私は音楽を作りながらじゃないと言葉が出てこないんです。歌詞だけを作ろうと思うと、とりとめなさすぎて出ない。言葉を優先にしたいときはちょっとメロディを変えたりして仕上げていきます。今回に限ってはピアノ・トリオというゴールはあったけれども、テーマも一切ないです。私自身、一つの音楽のジャンルを突き詰めたことがないし、「このアーティストの曲は全部知ってる」ということもないんです。昔、スティービー・ワンダーが好き、ビリー・ジョエルが好きと言ってたんですけど、知らない曲もいっぱいある。曲ごとに好き、嫌いという感じできたので、ジャンルがどうというのはいまいちわからない。  

 デビューの経緯も変わってますよね。ミュージシャンって若いときに下積みの期間や悩んだ期間があることが多い。渋谷系は過去の音楽を聴いていかに再生させるかを考えたり、和製R&Bはいかにアメリカに寄せようか考えたり。古内さんは在学中に自宅で録ったデモテープを持ち込んで見込まれてデビュー。下積みや苦労した感じがない。  

古内 デビューしてからは苦労しましたが、デビューに至るまではライブ経験もないし、バンドを組んだこともないし、「あ、このパターンは意外と珍しいのかも」ということはデビューしてから気づきました。  

 ひたすら自分に才能があったんですね。  

古内 曲を作ることは唯一、ハマったことだったんです。高校生のときにDX7(ヤマハのシンセサイザー)を弾きながら作って、ダブルカセットデッキのピンポン録音から始まって多重録音をして、MTR(マルチトラック・レコーダー)というものがあることを知って、お小遣いで買ったりして。  

 すごい。お姉さんと一緒にやったんですか。  

古内 その作業はひとりです。姉の影響ももちろん受けてるんですけど、姉は5つ上で大学に通っていたので、その頃は一人っ子っぽい環境で。潜んでいたオタク心に火が付いちゃって学校から帰ってそういうことをやるのが楽しくてしょうがなくて。  

 内側に向いていたから誰のジャンルにも入らず、自分だけの世界を作れたんですね。

古内 自分だけの世界がありましたね。 

(後編は3月19日<土>公開予定です) 

◎お知らせ◎
古内東子さんの新しいアルバム「体温、鼓動」についての詳細は、otonanoのページをご覧ください。 

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