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新型コロナウイルス以上の「人類滅亡の危機」は起こりうるという警告 - GIGAZINE
世界中を大混乱に陥れている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックですが、最終的には有効な治療法やワクチンが開発され、時間がかかる上に生活習慣の永続的な変化が起こるとしても、やがて人々の生活は落ち着くとみられています。そんな中、オックスフォード大学の哲学者であるトビー・オード氏が、「COVID-19のパンデミックはやがて来る人類滅亡の危機について考える絶好の機会」であると主張しています。
What if Covid-19 isn't our biggest threat? | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2020/apr/26/what-if-covid-19-isnt-our-biggest-threat
COVID-19のパンデミックを経験している人々は、今回のパンデミックが将来的にどれほどの影響を残すのか、感染症の拡大を防ぐためにどういった国際的な取り組みがなされるのかといった点について考えることができます。このように、人間は記憶に残っている最近の経験から将来起きるイベントの可能性を推定することは得意ですが、前例のない潜在的な大災害について考えることは不得手だとのこと。
オード氏は「The Precipice: Existential Risk and the Future of Humanity」という著書の中で、「たとえ専門家が前例のないイベントが起きる可能性がかなり高いと推定しても、私たちはそのイベントを実際に見るまで専門家の推定を信じることが困難です」と指摘しています。今回の新型コロナウイルスの世界的な拡大は、まさにこの例に当てはまるケースといえます。
専門的な知識を持つ科学者の多くは、近い将来に強力なウイルスが世界的に流行するだろうと確信しており、時に警鐘を鳴らしてきたとのこと。感染症の専門家でなくても、Microsoftの創業者であるビル・ゲイツ氏が2015年のTEDスピーチで「今後数十年で1000万人以上が亡くなる事態があるとすれば、戦争より感染性のウイルスが原因でしょう」と述べたように、一部の人々はパンデミックの危険性について理解していました。しかし、何度もウイルスによるパンデミックを警告されていたにもかかわらず、多くの人々はほとんどパンデミックの危険について考えてきませんでした。
2015年にゲイツ氏が語った内容の全貌は、以下の記事から読むことができます。
ビル・ゲイツが「もし次の疫病大流行が来たら」を語る2015年公開のムービー - GIGAZINE
オード氏は「人間の文明が取り返しの付かないレベルで崩壊し、生き残った人間の生活が先史時代の水準に戻る」あるいは「人間という種が滅亡する」といった、人間の「実存的なリスク」に焦点を当てている数少ない研究者の一人。実存的なリスクには「恒星の爆発」「悪質なウイルスの流行」「超火山の噴火」「人工知能の暴走」など多岐に渡る内容が含まれますが、ほとんどの市民や政府、その他の科学者はこうした実存的なリスクについて無視しているとのこと。
イギリスの政治家であるオリバー・レトウィン氏も「Apocalypse How?: Technology and the Threat of Disaster」という著書の中で、政府は貿易協定などの日常的な問題に緊急の注意を払い、社会が機械に乗っ取られるといった仮想的な将来の課題は後回しにすると言及しています。ところがオード氏は、人々が世界的なパンデミックを経験している状況が、「将来訪れるであろう人間の危機を回避するために何ができるのか」を考える絶好の機会になると指摘。今こそ、これまで見過ごされてきた実存的リスクについて考え、黙示録的な未来を回避する手立てを模索するべきだとオード氏は述べています。
オード氏は「人間が正しい決定を下せば、次の世紀で想像を絶するほどの繁栄が手に入る」と考える一方で、決定を間違えればドードーや恐竜と同じ滅亡の道をたどるだろうと考えています。超新星爆発や超火山の噴火、致命的な人工ウイルスの流出によって地球が滅亡するリスクは、一つ一つを考えればそれほど高くないものの、考えられる全てのリスクを合算すると可能性は決して低くないとのこと。オード氏は21世紀に実存的リスクが現実のものとなる可能性を「6分の1」と推定しており、「21世紀は人間の滅亡を賭けたロシアンルーレットと同じ状況だ」と主張しています。
なお、6分の1の確率で21世紀中に人間が滅亡するというシナリオは比較的穏当なものだそうで、人間が脅威に対して対処する意思を多少なりとも持っている場合を考慮したもの。もし、人間が本気で多くの実存的リスクに興味・関心を持って対処すればリスクは100分の1にまで減少するそうですが、バイオテクノロジーや人工知能といった分野で増加する脅威を完全に見過ごすと、人間が滅亡するリスクは3分の1にまで上昇するとのこと。
イギリスの宇宙物理学者であり、王立学会の元会長でもあるマーティン・リース氏も、迫り来る人類滅亡の危機について憂慮してきた研究者の一人です。「私は心配しています。私たちの世界は相互に関連しており、最悪の潜在的な大惨事がもたらす被害の規模は前例がないほど大きくなりますが、あまりにも多くの人々がこの脅威について否定しています」と指摘。リース氏は「なじみのないものはあり得ないものと同じではない」との格言を引用し、人々が実存的リスクに関心を払っていない点も問題だと述べました。
レトウィン氏はインターネットや衛星システムへの過度の依存を警告しており、社会の大部分が統合されたネットワークに依存することで、壊滅的な被害が全世界に拡大する危険性を示唆しています。また、オード氏はサイバー攻撃や自然発生した病原体が重大な実存的リスクを引き起こすとは考えていませんが、生物研究所で研究されている病原菌や生物兵器が、農業・輸送・貿易・都市部における人口の密集といった要素が重なり合う現代において、人間を滅亡に導く可能性があり得ると指摘。
この点について、オード氏は「人間社会があまりにも実存的リスクに無関心であるため、ほとんど実存的リスクを回避する試みがされてこなかった」と述べています。たとえば、生物兵器の規制を目的とした生物兵器禁止条約に割り当てられた予算は、年間でたった140万ユーロ(約1億6000万円)に過ぎず、平均的なマクドナルド1軒の年間売上高よりも低いとのこと。また、正確な金額はわからないものの、発達したテクノロジーが人間を滅亡させないための取り組みに費やされる予算は、年間のアイスクリーム売上高よりも安いだろうとオード氏は確信しています。
オード氏は決して悲観論者ではなく、人間が建設的な対策を取れば、実存的リスクを十分に軽減させられると考えています。人間はいわば体力はあるが先見性と忍耐力に欠けている思春期の状態であり、成熟するまでは自らの持つ力で自分自身を滅ぼしかねないとオード氏は指摘。そのため、人間は技術開発のペースを緩め、開発している技術が持つ本当の意味を理解する必要があるとのこと。
また、現代の人間が放置した実存的リスクが大きな問題となるのは、より後に生まれてくる将来の世代です。オード氏は私たちの子孫がいわば植民地化された人々の立場にあると指摘し、彼らは政治的な権利もなく、直接的な影響を与えることもできない存在だと述べ、これから生まれてくる世代のためにも人間は道徳的な理解を深めるべきだと主張しています。オード氏が最も大きな脅威だと考えているのが核兵器の存在だそうで、冷戦の終結以降で使用可能な核兵器の数は大幅に減少したものの、2011年に発効した新戦略兵器削減条約を更新し、継続して核兵器の削減を行うべきだと訴えました。
人間の滅亡に関わる実存的リスクを回避するためには世界規模の理解と合意が必要ですが、経済システムが世界規模になっている一方で、政治システムは依然として国家または連邦ごとに分断されています。新型コロナウイルスの流行が世界を結び付けるのか、あるいは分断を加速するのかは不明ですが、実存的リスクを回避するには世界中で統一した意思決定を行う必要があるとのことです。
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